増子航海投手(シドニー/神奈川)インタビュー☆「真っすぐをもっと突き詰めて、より質の高い球を作りたい」

photo: ABL Media

BCリーグ・神奈川フューチャードリームス2年目の昨年は、中継ぎで44試合に登板。チームのブルペンに欠かせない存在になった増子投手。3年目の契約を結んだところでのABL派遣をどう捉え、自身の飛躍につなげようとしているのか。その思いを聞きました。

 

「体の使い方」を追求中

――ABL派遣について、(神奈川)球団からはどんな形で話を受けたのですか?

フェニックス・リーグから帰ってきてトレーニングに入っていた11月終わりごろ、「こういうものがあるんだけれども、挑戦してみないか」とお話をいただきました。自分は去年1年間、NPBを目指して(独立リーグで)頑張ってきて、注目もされるようになり、もう一歩のところまで来られたので、「24年ももう一度、NPBを目指して頑張りたい」と球団に伝えて契約更新をしたところ。そのためにもABLはいい経験になるのではないか、とのことでした。僕は海外に出たことがなかったし、初めは少し迷いましたが、高木勇人さん、高橋康二さん、田代大輝さんといったABLを経験している先輩方に話を聞いて、「いい経験だよ」と背中を押され、参加を決めました。

――先輩方から聞いたお話の中では、ABLのどういう点が気になりましたか?

田代さんのお話で、マイナーからも選手が集まってくるから、「技術面よりフィジカル面で面白いものが見られるよ」という部分です。田代さん自身、自分は体が強いと思って日本でプレーしていたのが、ABLに来て「うわ、自分はまだまだだな」と感じたそうです。もっと鍛えて、もっと大きくしていいんだと思ったと聞きました。

――そういったお話を聞いて、増子投手は何をABLでの目標に置きましたか?

日本で行なっているトレーニングをそのまま続けながら、投げることですね。この時期に投げられるのは、ABLに来る最も大きなメリットだと思いますので。一方で、僕は肉体改造じゃないですが、自分の体をいかに動物的に扱えるかをテーマに今、トレーニングをしています。ウエイト一つとっても関節がどれだけ動くかとか、猫の肩甲骨の動きを観察してみるとか。動物的な本能を使って体を強くしたいと考えて行なっているトレーニングは、そのままこちらでも続けています。

――なぜ、動物的な部分を求めているのですか?

神奈川に来たとき、フィジカル面には自信があったのですが、野球=投げるという動作において下手クソだったので、そこを突き詰めて形を作っていこうと思いました。ところが1年目はそれがうまくいかず、2年目になって室伏広治さんや武井壮さんの動画を見たときに、「動物的に体を動かせば、もっと上手に体を動かすことができるんじゃないか」と感じました。ピッチングの中で、流動的に動かなければいけないのに、どうしても固まってしまう部分があったんですね。そこでもっと本能的にやってみようと去年1年取り組んだところ、それが結構いい方向に進んだので、この暖かいオーストラリアで、もう一つ上のレベルを目指して続けています。

――ABLは日本とは環境が違うし、全体練習の時間も少ないですが、そこはどう工夫して自分なりの練習をしていますか?

(シドニー)球団がジムを用意してくれて、ウエイトやランニング、トレーニングの面では何不自由なく、日本と変わらず練習ができているのはありがたいです。しかも、そのジムの施設が非常に整っていて、できる項目が多いので、様々なことを自分で考え、試しながらトレーニングができて楽しいです。

 

一流投手に共通する「再現性」

――ABLというリーグや、そこでプレーする選手たちから何か刺激を受けた部分はありますか?

やはり「体が強い」ということは、ピッチャーに限らず、野手からも感じます。無理な体勢からでも強い送球ができるとか。日本の独立リーグにいる(日本人)野手は、肉体が強いというよりセンスのある選手が多いので、そこは新鮮に感じました。実際、(ABLの選手は)ユニフォームを脱いでもすごい体をしているので、相当鍛えているんだなと思いましたね。

――ABLのバッターと対戦してみて、どんな印象を受けていますか?

スイングが強いので、ちょっと打ち損じてもフェンス手前まで飛んでいくんですよね。自分が投げているときでなくても、「え、そんなに飛ぶの?」という場面を頻繁に見ます。一方で、悪い言い方をすれば雑というか、アジャストする確率は低いかなと思いますが、やはりスイングが強い分、コースを間違えるといけない。多少大きく外れたボール球でも振ってくれるので、ここではストライクとボール球をハッキリさせなくてはいけないなと感じました。

――学生野球、独立リーグ、そしてABLで様々な選手を見てきて、どんなレベルであれ「ピッチャーにとって大切なこと」はなんだと思いますか?

やはり「再現性」かなと思います。例えば日本とABLではバッターのカラーが全く違います。でもバッターが違えど、自分のやるべきことは変わらない。自分が考えたことをどれだけマウンドで再現できるか。アウトコースに投げたいのなら、アウトコースに投げ続けられる再現性ですね。NPBやメジャーで活躍する一流の選手たちは、1年間を通して再現性が非常に高い。そこは自分も突き詰めていかなければならないところだと思っています。

――このABLでの経験も踏まえて今、自信が付いてきている部分はどんなところでしょう。

(シドニーの)試合前のミーティングで、「このバッターはファストボールに強いから、気を付けろ。投げないほうがいいぞ」という言い方を割とされるんです。でも自分は真っすぐに自信があるので、そのバッターに対しても真っすぐで攻めて、ファウルボールや空振りを取れると自信になりますし、このボールをもっと突き詰めて、より質の高い真っすぐを作っていかなければいけないなと改めて感じました。

――将来は、どんなピッチャーになりたいですか?

今、ABLでは後ろの短いイニングを投げさせてもらっていますが、いずれ前(先発)に行くにしろ、このまま後ろで投げ続けるにしろ、自分がマウンドに上がったときに味方から信頼され、相手から絶望されるような、圧倒的な実力を求めて投げていきたいなと思っています。

――ところで、オーストラリア生活で楽しかったところ、ビックリしたところ、印象深かったところは何かありましたか?

自分はずっと東京と神奈川にいたので、こんな自然に囲まれた環境の中で暮らすのはとても新鮮で楽しかったです。景色はとてもきれいだし、運転していてもすべてが大きくて、日本とまた違います。あとは、食事が結構淡泊というか、最初は少し抵抗もあったんですが、日本とは違う良さがあるなと感じて、だんだん慣れてきました。特に僕たちは自炊をしているので、肉を焼いて、サラダを盛って、といったメニュー中心。脂もほとんど肉からしか摂らず、鶏の胸肉でサラダチキンを作るとか。いろいろ健康に意識した食事ができているので、体にもいい影響が出ているのではないかと思っています。

Profile
ますこ・かずみ●1999年6月5日生まれ、東京都出身。190cm95kg。右投右打。東海大付属高輪台高―創価大―神奈川フューチャードリームス。大学時代はリーグ戦未登板ながらNPB球団から調査書が届き、“隠し玉”と話題に。神奈川入団後はMAX154kmを計測するなど、着実な成長を見せている。ABLシドニーでの成績は、すべて中継ぎで8試合(7イニング)に登板、0勝1敗、防御率9.00。

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