安里海投手(シドニー/神奈川)インタビュー☆「いい意味で、オーストラリア野球の“単純さ”を日本でも出していきたい」

photo: ABL Media

高校、大学、社会人野球と名門チームを渡り歩き、プロ注目の存在だった安里投手がこの秋、社会人2年目の途中で自ら退社。独立リーグ。神奈川フューチャードリームス入団を決めたことは、スポーツニュースでも話題になりました。その安里投手が独立リーグのマウンドより先に、ABLのマウンドを経験。どんな収穫を得て新たな世界にチャレンジするのか、聞きました。

 

2024年が勝負の年

――安里投手は野球人生において、大きな決断を何度かしていますね。

自分は沖縄出身なんですが、高校進学のとき(神奈川の)東海大相模を選びました。県外で野球をやりたいと思っていて、相模が自分の将来のためにも一番いいのではないかと考えたためです。でもそれ以上に大きな決断は昨年11月、(東海大を経て入社した)社会人野球の日立製作所を2年で退社し、独立リーグ(神奈川フューチャードリームス)入りを決めたことですね。

――日立にいれば、野球を引退したあとも会社に残って社業に従事できたのでしょうか。

そうです。ただ自分はやはりプロ野球で投げたい気持ちが強く、このまま社会人野球を続けて引退し、社業に入る自分の姿がイメージできませんでした。「なんのために野球をしているのか」と自分のモチベーションを改めて考えたとき、年齢的にも2024年が勝負の年なのではないかと思った。そこで自分の直感を信じ、決断しました。

――神奈川入団を決め、独立リーグのマウンドを経験する前にABL派遣となった経緯は?

入団が決まったあと、(神奈川)球団から「オーストラリアのウインターリーグに選手を派遣することになって、こちらとしては安里君を選びたいんだけれども、興味はありますか?」と聞かれました。これはチャンスだなと思い、すぐ「行かせてください!」と答えました。

――オーストラリアでは何を目的とし、何を身に付けて日本に帰れればいいと思っていましたか?

外国人バッターは、パワーもリーチの長さもある。マイナーリーグでプレーしている選手も来ると聞いていたので、そうした選手たちに今の自分の実力がどのくらい通用するのか。自信となるところと、逆に課題を浮き彫りにできたら、帰国後の2月、3月でそこを潰してシーズンに入りたいと思いました。

――そこは実際、ここまで(インタビューは1月11日)投げてどうでしたか?

自分の強みであるストレートとフォークに関しては、芯で捉えられることがほぼなかったので、そこは通用するんだと思いました。一方で、外国人のバッターは日本人よりリーチが長いので、外のボール球にもバットが届いて打たれてしまう。ABLではコースに投げ分けるより、真ん中からどのくらい曲げることができるか、落差の部分を磨いたほうがいいのかなとは感じました。日本では小さな変化球が主体になっていますが、もちろん曲がれば曲がるほどいいわけで。そこは、日本にいたら気付けなかったところだし、日本に帰ってからもそういうピッチングができたら、なおいいなと思いました。

――日本に帰ってから、そのへんはどんなふうに意識して進めていきますか?

ピッチングとトレーニングの両面で、体の使い方から見直していくつもりです。

 

「自分」を持っている人が多いオーストラリア

――ABLの選手と話をして、あるいは彼らのプレーから何か感じたことはありますか?

キャッチャーが外国人なので、試合の中で自分が「ここに投げたい」と思うところと真逆を要求されることもありますね。そこは「そういう攻め方もあるんだ」と勉強になっています。日本では(キャッチャーが)コースに構えてギリギリに投げる、という文化がありますが、ABLでは真ん中に構えて、そこからどのくらい曲がるかとか球の強さで押すか、という感じ。その違いが、逆に「このくらい大まかにいっても行けるんだ」と思えました。日本にいるとき、いい意味でも悪い意味でも考えすぎていたのかなと、こちらに来て感じましたね。

――なるほど。ABLのいいピッチャーや、NPB経験者などのピッチングを見て、何か共通するところはありましたか?

やはり皆、ある程度真っすぐや変化球の球威がありますね。ただコントロールがめちゃくちゃいいかと言われたら、そうでもない。2ストライクまでは大まかなところで、球威で押してファウルを打たせてカウントを稼ぎ、決め球だけしっかり投げる、というところがあると思いました。日本だと、1球目はここ、2球目はここ、みたいな感じでコースにしっかり投げ分ける。特に社会人野球はコントロール重視のところがあるので、ABLのピッチャーのような投球をすると、「(コントロールが)定まっていない」と判断されてしまいます。日立でも元NPBの先輩投手なんかは、「球が強いんだから、もう二等分くらいで行けよ」と言ってくれていたんですが、なかなかそれができなかった。ここではそれができるので、自分の中ではやりやすいですね。

――ABLで学んだことを日本でうまく生かすとしたら、どういうことになりますか?

やはり決め球はしっかり投げること。自分は先発なので、イニングをたくさん投げたければ、コースばかり狙うより真ん中でファウルを取れたほうが、球数が少なくて済みます。いい意味で、その“単純さ”を日本の野球でもう少し出せればいいなと思っています。

――日豪両方の野球を融合して、使えるといいですね。

はい、そう思います。だからここに来て、本当によかったです。

――目標としているNPB入りのために、日本に帰ってからどんなところをアピールしていきたいですか?

まず1年間、ケガをしないこと。そして1年間、安定した防御率を残すことが、NPBに行くためには大事になってくると思います。調子の波がなく常に安定していることが一番ですが、調子が悪いときにどれだけ抑えられるかも求められてきます。この「1年間を通して」という点が、自分が独立リーグを選択した大きな理由。社会人野球の試合はすべて大会ごとのトーナメントなので、1年間を通しての防御率が出しづらい。自分が今足りないのは、安定性の面だと思っているので、そこで評価を上げるためにも独立リーグで結果を出していきたいです。

――オーストラリアでの生活やこちらの文化自体はどうでしたか? 楽しめましたか?

皆、結構ゆっくりですよね。練習時間にも全然来ないし(笑)。沖縄の人も結構ゆっくりなので、自分はちょうどよかったです。あと、自分の意思というか、自分を持っている人が多いですね。日本は周囲に気を使って、自分を出したくても周りに合わせてしまうことがほとんどだと思うんですが、こっちは人のことは別に気にしない。それがいいのか悪いのかは分かりませんが、自分としてはとてもいいなと思いました。そういう人ほど、他人がどうあれ、自分の練習はストイックにするんです。やはりプロに行くとなったら、それぐらいにならないといけないんじゃないかと感じました。

――確かにプロの一流投手は、そういう面のある人が多い印象ですよね。

時と場合にもよるでしょうが、自分だけでいいやくらいの気持ちでやっていかないと。結局、投げるのは自分ひとりなので。

――その面でも、オーストラリア流を融合できればいいですね。

実は自分、もともとあまり他人に興味がないほうで……(笑)。日本だったら結構、「お前、クレージーだよ」みたいに言われることも多かったんですが、こちらに来て、このままでもいいのかなと思えるようになりました(笑)。

Profile
あさと・うみ●1999年7月21日生まれ、沖縄県出身。179cm82kg。左投左打。東海大相模高-東海大-日立製作所-神奈川フューチャードリームス。東海大時代には4年秋の首都大学野球リーグ戦で最優秀投手賞。日立製作所では2022年春のスポニチ大会で優秀投手を獲得している。ABLシドニーでは先発、中継ぎ両方で7試合(22.2イニング)に登板し、1勝3敗、奪三振24、防御率6.35の成績。

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