クリス・アダムソン監督(アデレード)インタビュー☆「試合に対する準備に重きを置けば、勝ち負けは自然とついてくる」

PHOTO: Ryan Schembri / Adelaide Giants | Action from the Australian Baseball League 2023/2024 Round 8 clash between Adelaide Giants vs Canberra Cavalry played at Dicolor Australia Stadium, West Beach, South Australia

アデレードの監督に就任し、今季7季目を迎えたアダムソン監督。昨季はチームをクラクトン・シールドに導き、今季もレギュラーシーズン1位通過でセミファイナル進出を決めています。日本人選手も多く見てきたアダムソン監督に、お話をお聞きしました(※取材はセミファイナル進出前)。

 

心身ともにタフさが必要なスポーツ

――アダムソン監督は、アデレード・ジャイアンツの監督を7季にわたり、務めていますね。その間、監督としてのご自身に成長や変化はありましたか?

ええ、多くの成長があったと思います。大きな変化ではありませんが、特に私が重要だと感じている点では成長したと思います。最初のころは勝つことだけにこだわっていて、日々の勝敗が気になって仕方ありませんでした。でも何年もかけて、勝ち負けは必ずついてくるもので、どのように準備するかのほうに重きを置くべきだということを理解し始めました。週の前半に練習で行うことなら、自分たちでコントロールできますからね。だから、練習での準備のほうが、私にとって重要なものになりました。

――ABLの監督の使命は勝つことですか? それとも選手を成長させること? 最も重要なものはなんだと思いますか?

もちろん試合をする以上、勝つことは大事なことだと思います。しかし最後に優勝できるのは1チームだけ。だから、もし私の使命が選手たちを最高の選手、最高の人間にすることだとしたら、それは本当に重要なことだと思います。特にオーストラリアでは、野球はメジャーなスポーツではないため、この野球という競技を成長させる上で我々は非常に重要な役割を担っています。そこも大切な使命だと思います。

――ではプロ野球選手として、最も重要なことはなんでしょう。

さまざまな意味において回復力が必要だし、精神的にもタフでなければならないと思います。野球は本当にハードなスポーツで、何度も失敗するゲームです。最高のバッターでさえ、10回中7回は失敗する。だから、それもこのスポーツの一部と割り切って、どのように準備し、何をすることが自分を成功に導くのかを明らかにする必要があります。練習やブルペンでの投球など、準備の仕方が本当に一貫して自分を律しながらできるものであれば、長い期間、選手として成功できると思います。

――日本プロ野球界の名捕手で名監督としても知られる人は、「監督に最も適したポジションは捕手だ」と言っていました。アンダーソン監督も元捕手ですが、どう思いますか?

それには同感ですね。捕手は、フィールド全体を見渡せる唯一のポジションで、試合の中で起こっているすべてを見ることができます。それに、捕手が投手の球を受けることは、目の前にいるバッターをつぶさに見ているということでもある。捕手というポジションは試合の流れを最もつかむことのできるポジションです。捕手の仕事は、精神的な側面も大きい。そして、それが今でも脳を刺激してくれるのが、私が監督をやっていて好きなところでもあります。

――これまでアデレードに来た日本人選手で、一番印象に残っている選手は誰ですか?

私は日本の野球が好きで、何度も日本にも行っています。これまでアデレードでプレーした日本人選手たちの仕事ぶりや毎日の準備の仕方は、信じられないほど素晴らしいものでした。今年の例でいえば、(村田)透。彼はとても長いキャリアを持っていますよね。毎日の仕事ぶりや、登板日に向けての準備を見ているだけでも、そこで彼が蓄積してきたものの素晴らしさが分かります。そして、自分より少し年下のオスカーを助けている姿はチーム全体にとてもいい影響を与えるし、本当に大切なことだと思いますね。

ホンダが選手を派遣してくれていたころも、何人ものいい選手がいました。どのチーム、どの会社から来た選手であろうと、日本人選手たちは同様に、毎日本当にいい準備をしてくれます。だから、私の仕事もやりやすかった。彼らがしっかり練習をこなすかどうか心配する必要もないですしね。文化的にも素晴らしいものを備えていました。日本人選手がうちのチームに加わってくれることは、いつも本当に嬉しく思っています。

 

野球は人生にも通じるものがある

――その言葉をお聞きして、こちらも嬉しく思います。監督はシドニーからアデレードに移り住んでいらっしゃるんですよね。アデレードのどんなところが好きですか?

ここに来てすぐ、もう12年になります。何もかもゆったりしているところが気に入りました。街から10分も行けばどこにも負けない美しいビーチがあるし、すべてが近くて、シドニーよりも少し静かです。友達や家族はみんなまだシドニーにいたけれども、ここに来てすぐ、この街は自分に合っているなと思いました。街もチームもとても気に入りました。彼らは僕を受け入れてくれたし、僕もあっという間にアデレードの一員になれました。

――もちろんシドニーにも、素敵なビーチはあるけれども……。

そうですね。ただ、アデレードの少し静かなところが好きなんですよ。大都市もいいけれども、たまには静かな日々を過ごすのも好きだから。ここではビーチに行くと、自分だけの小さな隠れ家のような場所を見つけることもできて、落ち着けるのがいい。本当、素晴らしいんですよ。

――ところでアダムソン監督は、なぜこのオーストラリアで野球を始めたのですか?

4歳のとき、同じ通りに住んでいた家族が、ある日練習に来ないかと誘ってくれたんですよ。私は友達と一緒にいるのが好きだったし、野球をやっている友達も何人かいました。オーストラリアでは野球は人気のあるスポーツではないけれども、友達と一緒にグラウンドに行って野球をするのがとても楽しかったんです。

――野球の何が、アダムソン監督をそんなに惹きつけたのでしょうか。オージーフットボールやクリケットを選んでいたら、オーストラリアではもっともっとお金持ちで有名になっていたかもしれないのに……。

野球は本当に美しいスポーツだと、いつも思うんですよ。あんなに広いフィールドの中でプレーしながら、1インチの差がセーフとアウトを分ける。まあ、そこは私にとっていいことばかりではないけれども(笑)。野球はとてもハードなスポーツで、試練を受けたり逆境に立たされたりすることも多い。それは人生においても同じで、野球でそれを乗り越えて得た成功体験は、必ず自分の人生においても助けになると思うんです。私が野球を愛している一番の部分は、そこですね。

――最後に、なぜ皆に「タンク」と呼ばれているのですか?

私は8歳ぐらいのころ、ちょっと太めの子どもで、足も遅かったんです。それであるとき、コーチに「お前、タンク(戦車)みたいだな」と言われ、皆に「タンク」と呼ばれるようになりました。今でも野球仲間は誰も「クリス」と呼ばず、「タンク」と呼んでいるんですよ(笑)。

Profile
Chris Adamson●1988年5月30日生まれ、豪州ニューサウスウェールズ州シドニー出身。米国テキサス・アンジェロ州立大卒。2011年から16年までアデレード・バイト(現ジャイアンツ)で捕手として活躍。現役最後の2シーズンはベンチコーチも兼任した。17/18シーズンから監督。7季連続の監督在任は、現ABLの史上最長記録。23年WBCの打撃コーチを務めたほか、20年からMLBフィリーズ傘下のチームで監督やベンチコーチを歴任している。

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