村田透投手(アデレード)インタビュー☆「野球が好きで、体も元気。辞めようにも辞められません」

photo:ABL Media

今回、村田投手へのインタビューは少し他の選手へのインタビューとは違うかもしれません。NPBに始まって世界中のリーグを渡り歩き、まだまだ先は見えない“野球人生の途中”という村田投手。なぜ野球を続けるのか、何を目指しているのか。ABLのこと以上に村田投手のことを少しでも知るために、そんな質問をぶつけてみました。

 

自分はもっとうまくなれる

――今季、アデレードへの入団当初、チームのSNSで「Sensei(先生)」と紹介されていましたね。なぜ「先生」と呼ばれるようになったのですか?

昨季、(オークランド)トゥアタラではそう呼ばれることもありましたが、アデレードではもう呼ばれていないんですよ。実のところ、トゥアタラでもなぜそう呼ばれていたかは分かりません。僕が投手陣最年長で、何か聞かれることがあれば自分の知っている限りのことは答えるようにしていました。若い選手が多く、日本人選手も結構いましたので、最大限のリスペクトを込めて、そう呼んでくれたんじゃないかとは思うのですが……。

――村田投手は日本でNPB、アメリカでMLB、マイナーリーグ、ベネズエラのウインターリーグにABL、そして昨年はドイツのブンデスリーガも経験しました。各国を渡り歩きながら、なぜ、何を目指して38歳の今なお野球を続けているのでしょうか

野球が好きだからじゃないですか。それに今も、自分の体はとても元気。この年齢まで来て、健康で野球ができている選手は、おそらく少ないと思います。自分の中では、まだ成長できている、野球がうまくなっている感覚もありますし、もっとうまくなれるんじゃないかという期待もあります。何より体が元気なので、辞めようにも辞められない(笑)。契約してもらえる間は野球を続けたいし、実際こうしてオファーをいただけることはありがたく、また運にも恵まれて野球ができていると感じています。

――ピッチングにおいて何か突き詰めたいものがあるのか、あるいはご自身の体の限界を突き詰めたいのか。どちらの気持ちが大きいですか?

野球の技術ですね。技術的にもっとうまくなる、その可能性がまだ自分の中にあると思っています。

――“村田投手の完成形”は、どんなところにあるのでしょうか。

それはないですよ。もう今さら、大谷翔平君(MLBドジャース)にはなれないですし(笑)。ゴールはないと思います。

――ゴールのない道は、辛くないですか?

自分が好きで野球をしているので、辛くはないです。だからゴールが見えないというか、ゴールは野球を辞めるときなんでしょうね。でもまだそこが見えてこないから、野球を続けているんです。

――村田投手がご自身のピッチングの中で、伸びしろを感じているのは具体的にはどんなところですか?

ピッチングしていても自分の中で納得できない部分というか、まだまだミスがあります。自分で分かっているのにできないのは、未熟さゆえ。そこは自分次第で「もっとうまくなれるんじゃないかな」と思っています。

――例えばよく言われるのが、年を取るとストレートのスピードはだんだん落ちてくるから、若いころとは配球やスタイルを変えて……ということ。村田投手は、そこはどう考えていますか?

もちろんスピードは落ちていますし、若いころのようなピッチングはできないけれども、大きく自分のスタイルを変えなければいけないわけではないと思っています。逆に僕のレベルでそうしなければいけなくなったら結果も残せないでしょうから、それは野球を辞めるときですね。

――やはりピッチャーはストレート……。

だと思います。ストレートあっての変化球。しかも、質の高いストレートを投げなければ、変化球も生きてこない。そこでストレートに球速があれば別ですが、僕ぐらいの球速では、やはり質の高い球を投げなければ抑えられません。

――村田投手にとっての、「質の高い」ストレートとはどんな球ですか?

強い球ですね。その球でどれだけファウルを取れるか。

――ABLで戦えるピッチャーの条件は、どんなふうに考えていらっしゃいますか?

まずはしっかりストライクが取れること。球場によってマウンドも全く違いますから、それに対応できる技術もなくてはダメだと思います。あとは当然、メンタルも大事ですよね。

――日本人投手が比較的いい成績をここまで残せているのは、そのへんのコントロールのよさが要因でしょうか。

全体的なコントロールもそうですが、変化球できちんとストライクを取れるのが大きいと思います。

 

いつも8割がた、野球のことを考えています

――これまで野球をしてきた国ごとに、村田投手自身に与えた影響には何か違いがありますか?

それぞれの国で文化・風習が違えば、マナーもルールも違う。環境も全く違いますから、新しく得たことや学んだことばかりでしたね。でも海外に出て最も強く感じたのは、「普通が普通じゃない」こと。自分がこれまで思ってきた「普通ってなんやねん」と、行く先々で感じました。

――それは比較的若いうちに感じられてよかったですか?

アメリカに行ったのが26歳のときで、割と早くそれを学べたのはよかったかなと思いますね。あのまま日本で野球を続けていたら海外に出ることもなかったでしょうし、「普通とは何か」なんて考えることもなかったはずです。

――海外生活を経験して村田投手自身、どこか変わりましたか?

人生に関しては変わったと思います。英語もそれなりに、少しは分かるようになりましたし、その時点で日本にいたときとは人生が変わっています。(海外の人に負けないよう)自己主張も出るようになったかもしれないですね。ただ僕の場合、物事を大きく考えられるようになったことのほうが変わった部分だといえるかもしれません。もともと、とても細かい性格で、こだわりが強かったんです。海外を経験してから、多少は細かさがなくなってきたんじゃないかと自分では思っています。それも、やはり「普通が普通じゃない」と感じたことが大きかったのでしょうね。

――ABLやオーストラリア自体のよさ、面白さはどんなふうに感じていますか?

暖かくて環境はとてもいいので、野球はやりやすいですね。異常気象といわれた昨季と違って今季は、特にアデレードでは雨も全く降らないですし。こんな快晴の中で野球ができるのは、幸せなことだと思います。

――アデレードは昨季、ABLで優勝。今季も1位通過でプレーオフにコマを進めています。この強さの要因はどこにあるのでしょうか。

施設も整っていて環境がいいこと、オーストラリア人選手にいい選手が多いうえに、フィリーズからの派遣もあって、選手層が厚いこと。昨年の優勝を経験している選手が多く残っているのも大きいですね。やはり全体的に戦力が揃っているのではないかなと思います。

――村田さんにとっての野球とは、なんでしょうか。よく「ライスワーク」と「ライフワーク」なんて言いますが、そのどちらに近いですか?

どちらかといえば「ライフワーク」に近いんじゃないですかね。今は野球のために生きている感じがあります。私生活も100%とは言わないけれども、やはり常に翌日の野球のことを考えて、前日の夜も行動しています。8割がた、野球のことを考えていますかね。

――そうお聞きすると、「ライフワーク」ではちょっと軽く聞こえる感じもありますね。何かもっと適切な言葉はありますか?

野球中心の生活を、今までもう十何年以上もしているので、どうなんでしょうね。何とは言えないですね。普通が普通じゃないというか、何が普通か分からないので、なんとも言えないです。

――これからプレーオフを戦い、2月初めまでにはシーズンが終わります。その後のことについては、今どう考えていますか?

どこかで野球が続けたい気持ちはあって、今、チームを探している段階です。ただ正直、日本ではもう自分の実力ではチャンスはないと思いますし、海外でまた新しい経験を積んで、いろいろ学びたい気持ちが強いですね。

――ヨーロッパ、あるいはアメリカや中南米でも、どこでもオファーがあれば行きますか? そしてまたABLに戻ってくる可能性も?

話を聞いて、自分が魅力を感じた場所に行きたいとは考えています。来季ABLで投げるかどうかは、まだ自分でも分かりません。お話をいただいて、そのときに自分がここでまた3シーズン目を過ごしたいと思うかどうか。そこで答えを出したいと思います。

Profile
むらた・とおる●1985年5月20日生まれ、大阪府出身。183cm79kg。右投左打。大阪体育大学浪商高―大阪体育大―巨人―クリーブランド・インディアンス―北海道日本ハム―オークランド・トゥアタラ―ボン・キャピタルズ―アデレード・ジャイアンツ。今季ABLのレギュラーシーズンでは9試合(40イニング)に登板。7試合に先発し、2勝3敗、防御率4.50。

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