加わった引き出し/竹内諒

有言実行。「防御率3点台にして日本に帰りたい」と言ってからの登板では、相手チームにホームを踏ませなかった。
社会人野球Honda鈴鹿に入社し、3年目のシーズンオフ。鈴鹿からは初めてのABL参加となった。1カ月超の“オーストラリア土産”は、自身の成長。そして送り出してくれた会社のために2019年、結果を出すことが、その先の目標――NPBへと竹内を導いてくれるはずだ。

Ryo Takeuchi – Action from the 3rd Round Match of the 2018 / 2019 Australian Baseball League between Adelaide Bite and Perth Heat played at Bennett Field, West Beach, South Australia Photo: Ryan Schembri – SMP Images / ABL Media]

「最初は、大変だったんです。言葉は分からないし、いろいろ違うことが多すぎて、苦痛さえ感じました。1日が長かった……(苦笑)」

渡豪から開幕まで約1週間はあったものの、日本のようにしっかり全体練習があるわけでもない。“練習をしてきた”感のないまま開幕の地・ブリスベンへ飛んだ。

ブルペン待機を言い渡されたが、アップの時間からすべて、選手個々に任されている。これにも正直、戸惑った。限られた時間の中、日本でやってきたとおりに体を仕上げ、ブルペンに入った。

ところが今度はブルペンで、初めは全く自分の出番が読めなかった。急に指名され、準備不足のままマウンドに上がると、体のスタンバイ以前に心拍数が上がってしまう。それだけは避けたかった。

幸い、ABL初登板は第1ラウンドの4戦目。先発投手が1回KOされてのマウンドで、2イニングを投げ、被安打1、奪三振4と完璧に抑えた。

「第2ラウンドからは試合の展開を見ながら、自分の出番を読んで、指される前にアップしておけるようになりました。“ランナーを背負った場面で左バッターを抑える”という、チーム内での仕事が明確になったのも大きかったですね」

いつしか付いた、チームでの愛称は『テリー』。クリス・アダムソン監督が、なぜか『テリヤキチキン』の『テリ』から命名した。ランナーが出ると、「そろそろあるかな。体を動かしておこう」と、アップを始める。ベンチから「テリー、準備して」と声が掛かったところで、ブルペンでの投球に力を込めた。

アデレードでの住まいは、広い一軒家。Honda熊本から同時期派遣されてきた菊江龍投手ほか、チームメイト5人の計7人でハウスシェアをする。とはいっても日本とは違い、1人1つのバス・トイレ付ベッドルームが与えられているため、自分の時間も大切にできた。

そのルームメイトの1人が、ドイツ人のマーカス・ソルバック投手。チームの主軸で、ドイツ国内リーグのブンデスリーガ、米マイナー、独立リーグ、ABLを渡り歩き、このほどMLBドジャースと来季の契約を結んだ。2013、17年WBCのドイツ代表選手でもある。

「ボールの握り方、投げ方、どういう意識で投げているかなど、教わりました。彼は自分のことも客観的に見ているし、小さいころからサッカー、卓球などいろいろな球技をやってきたためか、発想が豊か。野球に対する様々なアプローチにつながっていると思います。そこも見習っていきたい」

 

良かったことも振り返り、分析する

 

これまで自分のことを客観的に見つめてきたつもりだったが、ソルバック投手を見て「まだまだだな」と思った。そう考えると、ここで吸収したいことは山ほどある。身振り手振りを交えながら、彼以外の投手にも積極的に話しかけた。

「日本ではチェンジアップ、フォーク、スプリットといった落ちる球に自信がなかったんです。そこで、こういう握りや考え方がある、ということをチームの投手陣ほぼ全員に聞きました。まだしっくり来るものはないけれど、すぐにできてしまったら面白くない(笑)。何個か絞り込んでいるので、日本に帰って、日本のボールで投げながら考えていきます」

多彩な引き出しを持つことの意味と大切さをソルバック投手から学び、チームの仲間たち、他チームの投手たちから、多くのヒントをもらった。自分の引き出しが増えていくにつれ、オーストラリアでの時間も充実し始めた。

それからは、あっという間の1カ月だった。12月14日、竹内にとってのABL最終カード(対キャンベラ)第2戦。ブルペンからストレートが走っていた。8回一死一、三塁の場面で、マウンドへ呼ばれた。

「キャッチャーのミッチェル(エドワーズ)に、今日はストレートがいいから、“ファストボール、オンリー”と言いました。防御率3点台で帰りたかったので、今日は絶対に抑えると結果にもこだわっていましたが、それ以上に調子のいいときのストレートがどこまで通用するか、試してみたかった」

1.2イニング7人に22球投げたうち、実際9割は真っすぐ。指にしっかりかかった球は、空振りやファウルが取れた。被安打1は、明らかな失投。0点に抑え、通算防御率も3.68になった(最終成績は防御率3.31)。何よりの収穫は、それまでのマックスだった88、89マイルを超える91マイルを5回、計測したこと。

「あれにはマーカスも驚いていました。人って、悪いときは反省して自分のピッチングを見直すけど、いいときは見直さない。でも今回、なぜストレートが良かったか。自分のピッチングをしっかり見直して細かく分析し、常時ああいうピッチングができるようにしていきたい」

NPBからABLに派遣されてきた他チームの投手たちとも話す機会を得、刺激を受けた。2019年の目標は1年を通して活躍し、Honda鈴鹿を都市対抗に導くこと。そして、NPB入りを果たすこと。ABLでの2カ月間は、心技体すべての面で、そのステップアップにつながるはずだ。

気が付くと、あれほど苦痛に感じたオーストラリアでの生活も、「毎年来てもいいな」と思えるようになっていた。

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