☆戸谷優太アスレティックトレーナー(横浜DeNA/キャンベラ)インタビュー☆ 行動で示すことが、最高のコミュニケーション=信頼関係につながった

ABLでの最終戦後、選手、スタッフから記念撮影を求められる戸谷さん。

横浜DeNAベイスターズとキャンベラ・キャバルリーの間で結ばれた「戦略的パートナーシップ」のもと、22年末の2カ月間、キャバルリーのアスレティックトレーナーを務めた戸谷さん。「初めての海外経験」となった今回の派遣が、戸谷さんにもたらしたものは?

 

1人でチームをみるABL方式

――まずは、今回のABL・キャバルリー派遣を希望した理由からお聞かせください。

理由は大きく三つありました。一つ目は私自身、旅行も含めて海外に出たことがなかった。これが一番大きな理由になります。二つ目は、オーストラリアに来たら私が「外国人」の立場になるため、ベイスターズの外国人選手たちの気持ちを理解できるきっかけになるのではないか、ということ。三つ目は、キャバルリーにも常駐のトレーナーがいるので、海外のトレーナーと交流、情報交換し、例えば治療の仕方などを見たり経験したりする機会を持ちたかったためです。

――そもそもベイスターズでの、アスレティックトレーナーのお仕事の内容はどんなものなのでしょうか。

主に選手の治療やコンディショニングを行う部門です。特に私はメディカルの担当として、選手がどこか疲労を感じている、体が張っている、痛みがあるなどといったとき、いかに試合でベストパフォーマンスを出せるように体をもっていくかが、主な仕事になります。

――一般社会でいう整体師さんのように、直接マッサージなどを行なうのですか?

はい。ベッドサイドで選手の状態を評価し、マッサージや電気による治療を行ないます。

――キャバルリーでも、同じような形で仕事を進めていたのでしょうか。

基本的には選手側から何か訴えてきたとき、私がその選手の動きを見て感じたところとすり合わせて、治療につなげています。例えば「今、ここが張っているんだけど……」と選手から言われたとき、「じゃあ、こっちの部分も動かしたほうがいいね」というように、より改善につながる治療方法を提案して施術します。

――それが、キャバルリーのトレーナーさんのやり方ということ?

そうですね。日本だと……例えばベイスターズだと登板前に、今の体の状態がどうかをみるチェックが定期的にあるのですが、キャバルリーではそういったことがなく、選手が訴えてきた体の張りなどに対して対処する形でした。

――キャバルリーに合流して最初は、どんなところからスタートしたのですか?

最初はキャバルリーの専属トレーナーを務めるデービッドに、「この選手はここの治療をしてほしいと言っているから、対応してくれ」と言われ、私が治療するところからですね。例えば張りを抜く作業なら、張りがどういう理由から来ているのかなという、その張りに関連していそうな部位を治療していく、というところから始まりました。

――職務配分としては、デービッドさんが戸谷さんに指示するわけではなく、お互いフラットな立場だったわけですか?

その通りです。私のほうが球場に来る時間が早いことが多かったので、そのタイミングで球場にいる選手に「体の状態はどう?」と声掛けして、そこで得た情報をデービッドに伝え、彼がより正確にヒアリングしてくれて、治療するかどうか判断してくれるという連携になりました。

――オーストラリアのトレーナーさんとは、同じ野球選手を見る中でものの考え方とか治療法とか、何か違いはありましたか?

治療自体は、使う手技も大きく変わったところはなかったと思います。ただ、治療に対する時間のかけ方に違いがありました。もともとチームにトレーナーはデービッド1人。トレーナー1人でチーム全員に対してできることは限られているため、選手が訴えてきた箇所に対しベストな治療法を選択することで、選手の満足度を得る形になっています。日本では「全身のトリートメントをお願いします」といった要望が1人の選手から出たら、その選手に時間をかけて対応します。そういった時間配分といいますか、少ない人数でいかに全選手をカバーするかを優先する、考え方の違いがありました。

 

嬉しかったスタッフのひと言

――その中で、最初におっしゃった三つの目標はどうなりましたか?

まず、海外を存分に経験できました。やること、行くところ、見るところ、すべて初めてだったので、ものすごく貴重な経験ができたと思います。特に語学の点では、いろいろな国籍の選手が集まっていながら、オーストラリアは英語圏なので、みんな英語でコミュニケーションを取っていますよね。英語を話せない自分が海外に出ても、活躍するフィールドがないなと痛感しました。日本に閉じこもっていて日本語しか話せないのに「MLBのトレーナーになりたい」と言っても、それは難しい。英語が話せなければ、当然そういった仕事の広がりも少なくなるわけです。それを身に染みて経験できたことが、一番大きな収穫だと思います。これを機に英語を話せるようになることが、次の目標になりました。

――そうしたら、通訳さんを介さなくても外国人選手の治療ができるようになりますね。

外国人選手と直接コミュニケーションを取れて、彼らの気持ちを理解することができれば、彼らの感じる心理的安全性も高くなると思います。結局、英語ができれば、私が冒頭に挙げた3つの目標はすべて達成できることにも気が付きました。

――とはいえ、戸谷さんとチームの皆さんの様子を拝見していると、コミュニケーションは十分取れているように感じましたよ。

正確に、細かいことを英語で伝えられないので、とりあえず行動で示そうと思ったんです。練習のサポートとか、自分ができる行動を積み重ねていくうち、相手から分かりやすい英語で話しかけてくれるようになりましたし、そうして関係性が築けたからこそ、私も相手に対して臆せず英語を話せるようになりました。いい相乗効果が生まれましたね。

――ベイスターズの選手、球団スタッフの方々には、このABL派遣をお勧めしたいと思いますか?

勧めたいです。日本にいたときから、外国語習得について「周りに日本人がいないと語学は上達しやすいよ」なんていう話を聞いていました。キャバルリーもそれに近い環境で、確かにその通りだと思いました。一方で選手たちは、私の立場や仕事を、何をしてくれる人なのか理解してくれているので、チームに入っていきやすかった。ある意味、自分の安全が確保された中で挑戦できる。社会人になってから、こんな恵まれた環境で学ぶチャンスはなかなかないと思います。また海外の知見を得ること、異文化で暮らす人たちのものの見方、考え方、など日本では肌身で感じられないものを得られる場所。そうした点で、海外派遣参加はお勧めだと思います。

――選手の皆さんも同じですが、手を挙げて来ただけではなく、そこでご自身が何か一つ越えようとしないと意義のある派遣にはならないかと思います。戸谷さんも今回自ら行動に出ることができたから、充実度が得られたのでは?

それはあると思います。というのも、キャバルリーとの提携にかかわったベイスターズのスタッフがキャンベラ入りしたとき、私に対して「すごく信頼されているね」とか「いい関係を築けているね」と言ってくれたんです。それまで私自身、全くそういう自覚はなかったので、自分が地道にやってきたことが、そう感じてもらえるまでになっていたんだと初めて気付きまして。「ああ、ここに来てよかったな」としみじみ思いました。

あわせて読みたい