“ストレート・オンリー”の手応え/Honda・田村圭裕(投手)

「こっち(日本)では物静かで、自分から出ていくタイプじゃないのに、いい意味で向こうに染まっていた」とABL視察に訪れたHondaスタッフが評したのが、田村圭裕投手。ABLではアデレード・バイトの一員として9試合9イニングに登板し、防御率2.00と、力を見せてきた。オーストラリアでの性格豹変のワケ、そして得たものは――。

Action from the 6th Round Match of the 2018 / 2019 Australian Baseball League between Auckland Tuatara and Adelaide Bite played at Blue Lakes Sports Park, Mount Gambier, South Australia – [Photo: Ryan Schembri – SMP Images / ABL Media]

結果だけを求めても……

――ABL派遣にあたっては、事前にどんな話を聞いていきましたか?
「アデレードから“左ピッチャーが欲しい”と話があり、自分が推薦されたと聞きました。初年度(16/17年)シドニーに行った吉越(亮人=投手、昨季限りで勇退)さん、山崎(裕貴=捕手)さん、前年アデレードに行った幸良(諒=投手)さんからは、“環境に早く慣れないと、野球どころじゃないよ”という話をいただいて。1週間ぐらいで慣れたいなと思っていました」

――渡豪後すぐ、スタンドから前半組(Honda熊本・菊江龍投手、Honda鈴鹿・竹内諒投手)の試合を見ていましたよね。そこで“ああ、こんな感じか。じゃあ自分はこういうピッチングをしてみよう”と、目標が具体的になりましたか?
「同じ左ということもあって、横浜DeNAの今永(昇太)さんのピッチングスタイルを、日ごろから動画で見ていたんです。ちょうどスタンドで見ていた日がキャンベラとの試合で、今永さんが先発で投げていたので、実際生でピッチングを見ることができ、非常にいい機会になりました。今永さんのようにはすぐに投げることができなくても、ストレートで空振りが取れるかどうかは、日本でのピッチングでもずっと考えていたところだったんです。ストレートでファウルや空振りが取れてカウントが稼げる日は、ピッチングもラク。オーストラリアでは、ストレートを重点的に頑張ってみようと思いました」

――実際やってみて、どうでした?
「中継ぎでピンチの場面での登板が、多かったんです。“それなりに結果も出さないと”という思いもあったので、最初のうちは自分のやりたいことよりも、変化球を多めに使って打者を抑えていました。ただ、やはり“結果だけ求めて、変化球で抑えてもなあ”と思い、最終カード(1月19日、シドニー戦)だけは、キャッチャーにも“ストレート・オンリー”と言って臨みました。結果は打たれてしまいましたが(2回1/3、失点1)、試せてよかったなと思います」

――打たれても、なんらかの手応えはありましたか?
「手応えとしてはありましたし、やはりどれだけいいボールが行っていても、コースをしっかり投げないと、ということは再確認できました」

――ABLと日本の野球の違いを踏まえて、日本で投げるときは……というところまで考えると?
「ABLではインコースのストライクゾーンが少し、狭かったんです。そこで“ボール”の判定をされてしまったところもあるんですが、インコースもしっかり投げ切るところは投げ切れたので。バッターの反応も見られて、よかったですね」

 

いろいろなピッチャーから得たものが財産に

――ABLの選手たちから何か教わった、あるいは彼らを見て感じたものはありますか。
「去年、(日本で)カットボールとツーシームを覚えて、投球の幅が広がったんですよ。ABLではカットボールやツーシームを使うピッチャーが多かったので、いろんなピッチャーに握りや投げ方を聞いてきました。これから試していく価値はあるかな、と思っています」

――オーストラリアで、どんなところが成長できたと感じていますか?
「技術的な面は、日本のバッターとスイングの軌道などが違うので、実際どのくらい生きるかはわかりませんが、経験できてよかったこともあると思います。何よりいろんなピッチャーの話を聞けたのが、一番ですね。あと、メンタルの持ち方で、とても参考になった点がありました。(アデレードの)クローザーにライアン(・チャフィー)という投手がいて、彼が非常にいい気持ちの作り方、切り替え方をしていたんです。ブルペンで、いつも明るくずーっとベラベラしゃべっているんですが、8回くらいになると、急にスイッチが入るんですよ。話しかけづらいどころか、近づきづらいくらいのオーラを出して、マウンドでもすごく集中力がある。あれは参考になりました」

――ピッチャー、特にクローザーの方は自分のルーティンがしっかりしていると聞いています。
「ライアンもキャッチボールに入る前、一連のアップはしていましたね。あれはルーティン化していたと思います」

――田村投手の場合は、どうでしたか?
「僕はどこで行くかわからなかったので、作り方が結構難しかったです。ただ、いつ行ってもいいように、ずっとストレッチはしていました。ピンチで行くとき、やはり緊張はするんですが、こうなったらこうする、という自分のピッチングのパターンを何パターンか想像してマウンドにいくようにしています。Hondaのピッチングコーチに“1パターンしかないと、それができなかったときに荒れてしまう。何パターンか持っていると、これがダメだったらこれ、というふうに選択していける”と聞き、去年から実践していることです」

――ABLでは、日本では考えられないような場面での野手の失策もよくありましたね。
「それも、菊江さんと竹内から話を聞いていたので(笑)。日本だとエラーが少ないので、エラーが出たときに“わっ”と思ってしまうんです。そういう意味では、エラーが出ても冷静さを保てるよう、そこもいい経験になったかなと思います」

 

性格までオーストラリアナイズ?

――チームメイトにはなんと呼ばれていたんですか?
「Hondaでは“タム”と呼ばれているんで、最初はそれで行こうかと思っていたんですよ。でも(要所要所で通訳として来てくれた)ヒロコさんに、“ニックネームのほうが呼びやすいよ”とアドバイスしていただいたので、(オーストラリアで人気の)チョコレート菓子の名前をとって、“ティムタム”と呼んでもらいました(笑)」

――日本ではあまり積極的にしゃべるほうではなかったのが、向こうに行ったら「すっかりオージー(オーストラリア人)になっていた」とスタッフの方に聞きましたよ。
「自分でも、どちらかといえば黙々と練習するタイプだと思っていたんです。本当に聞きたいことがあれば、聞くぐらいで。だけど、せっかくオーストラリアに行ったのだから、明るくやってみようかなという気になりました。日本とはまた別のシーズンという感じでプレッシャーなく、いい意味で楽しめて野球ができたかな、と思います。チームメイトもみんな明るくて、やりやすい環境だったのもよかったですね」

――これからABLに派遣される選手たちに、何かアドバイスやおススメポイントを贈ってください。
「マウンドの硬さをはじめ環境はいろいろ違いますが、日本でも遠征先などマウンドの全く違うところもあるわけで、そういう対応力、適応力を付けるにはいい経験になると思います。それから、日本のシーズン中にはなかなか新しい球種など試すことが難しいですけれども、ABLは実戦の中で試せる非常にいい機会になります。そういったところは、本当におススメです」

――さて、今年はどんなシーズンにしたいですか?
「ケガなく1年間投げることが大前提ですね。今、チームに左が僕を含め2枚しかいないんです。だから、先発以外で投げる機会が多いと思うので、自分の与えられたポジションでしっかり投げていきたいですね」

―将来的には?
「プロの可能性もゼロではないので、自分のやるべきことをしっかり、できるだけやっていきたいと思います」

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