新天地への挑戦/福井ミラクルエレファンツ・原田宥希 (投手)

4月6日に開幕を迎える、ルートインBCリーグ。福井ミラクルエレファンツに今季、新しい顔が加わった。昨季、四国アイランドリーグplusで最優秀防御率、最多セーブの二冠を獲得した原田宥希。4年間在籍した香川オリーブガイナーズを離れ、新天地を求めた。その新たな挑戦の経由地となったのが、ABLオークランド・トゥアタラ。ニュージーランド初のABLチームで過ごした3カ月と、今の思いについて聞いた。

Yuki Harada – Auckland Tuatara – Photo: SMPIMAGES.COM / ABL MEDIA – Action from the Australian Baseball League (ABL) Round 3 clash between the Auckland Tuatara v Canberra Cavalry played in Auckland.

初めはオン・オフともコントロールできず

――2018/19シーズン、ABLに参加を決めた理由から教えてください。
「(前所属の香川オリーブガイナーズ)球団から、“こういう機会があるけれども行くか?”と聞かれて、“行きたい”と答えました。NPB入りを目指しながら、昨季(2018年)行けなかった理由の一つには、自分のパフォーマンスが上がってこなかった部分があったと思うんです。ABLは独立リーグよりもトレーニングの面などは進んでいますし、向こうで体を一回り大きくして、いろいろ自分のものにして帰りたいと思いました」

――所属したオークランド・トゥアタラには、千葉ロッテマリーンズの選手も参加していましたね。
「はい、それは(参加を決めた)あとから知ったんですが、12月末までロッテの選手がいた間は、自分の引き出しを増やせるよう、とにかくいろんなことを聞いて回っていました。今の自分の立ち位置を見直して、もう一度一から作り上げたいと思いました」

――ニュージーランド生活が始まって1カ月程度経った11月末、現地でお会いしたときには、生活リズム、野球とも少し苦戦していましたね。
「現地在住日本人のご家庭にホームステイさせていただいて、そこでの生活自体は食事から洗濯までお世話になって、本当に快適でありがたい環境だったんです。ただ、家を一歩出ると言葉は通じないし、チームメイトが車で迎えに来てくれる時間とか、チームの動きもいつもよくわからないまま、最初は自分で行動できなさすぎたというか。でも途中から、そのへんも“まあ、なんとかなるか”といい意味で開き直りはできてきました」

――野球のほうは?
「(リリーフを任されて)オープン戦ではよかったんですが、開幕して初登板の試合(18年11月17日、パース戦)でコケて(1回1/2、5失点)、そのときは“こんなんじゃあ、やっぱりNPBには行かれへんのかな”と不安になりました。日本では8、9回に投げるとき5回から準備していたんですが、ABLでは直前じゃないとアップしない。それまではブルペンでリラックスしているんです。そういった違いに慣れず、最初は自分をうまくコントロールできていなかったように思います。そのあたりも、結果を出している人は違うんですよ。当たり前のことが、きっちりできる。だから、どんなところでもちゃんと自分のパフォーマンスが出せるんですね」

――そこは例えばNPBの選手たちとご自分を比べて感じたところ?
「それもありますね。例えば横浜DeNAの今永(昇太)さんなんかは、最初からいい結果を出していましたよね。自分と何が一番違うかというと、まず立ち居振る舞いが違うんです。マウンドで堂々としている。自分はもう、そこからできていなかったです」

 

どうしたらあんなストレートが投げられるのか

――それから、日々どんなことを学んでいきましたか?
「技術的にも成長したいと思って毎日いろいろ取り組みました。まずは体幹トレ、ウエイトトレなどしっかりしていって、フォームを固めること。それから結果を残し、パフォーマンスを上げていくことを目標にしました。米国のマイナーリーグで結果を残しているカイル(・グロゴスキー=投手)や千葉ロッテの酒居(知史)さんたちに聞いて、見て多くを学びましたね。千葉ロッテの清水(直行)コーチには、フォームのこともアドバイスいただきましたし、“いい球を持っている。あとはそれを試合でどういうふうに使うか、だよ”ともおっしゃっていただきました。あとは、自分の武器を明確にすること。例えば“インコースにバンバン投げてくる”とか、マウンドに立ったとき、相手バッターが“このピッチャーのここには注意しなくちゃいけないな”と思うものをしっかり持っていないとダメだ、と。自分にはそれがなかったんですね。そこをABLで見つけていきたい、探していきたいと思いました。自分の現状に満足せずに、常に上を見ていかなくてはいけない、そのための課題を見つけていかなくてはいけないと思いました。向こうで、香川で見えなかったものが見えてきたのは確かです」

――キャンベラ戦のときには、今永投手と結構話をしていましたね。
「いろいろ質問したんですよ。まず、“どうやったら、あんなストレートが投げられるんですか?”と聞いたら、“空振りを狙っていないのがいいのかもしれない。打たせて取ろう、みたいなイメージでいくと、いい力感になる”ということでした。他にも“リリースだけ意識していたら、焦点がずれるので、リリースを意識しないほうが球が走るんじゃないか”とか、今永さんのピッチングに対する今の考え方を聞いて、勉強になりました」

――その後、だんだん結果も出てきたのは、フォーム固めがしっかりできてきたこともあるのでしょうか。
「最初は少しフォームを崩していた部分もあったので、一番調子のよかった去年、一昨年自分は何をしていたかな、と考えてみたんです。“あのときは、こういうことをしていた。ああいうことをしていた”と一から見直し、“こことここは、あのときと違う”と間違い探しみたいなことをしていったら、だんだんよくなっていきました。そこからバッターに投げても抑えられるようになっていったと思います。それに結果も付いてきました」

 

言葉が通じず一番困った点は……

――そこで見えてきたものもありましたか?
「初めは独立リーグのレベルとABLのレベルは同程度、と聞いていたんです。でも戦っていくうち、ABLのほうがレベルは高いなと思いましたし、そこでどうやって相手を抑えていくか、試行錯誤もしました。久しぶりに“抑えて当たり前”じゃなくて、挑戦しながら投げられた部分があって、とても楽しかったですね」

――独立リーグでは、リーグMVP投手という“顔”で抑えられていたところもあったでしょう。
「そこから全く知らないところへ行って、言葉も通じないし、挑戦しなければならない部分が出てきたのは、はっきり感じました。まず、キャッチャーと言葉が通じないんですから。何が一番困ったかというと、自分自身の投球を振り返れなかったことなんです。“あそこでああいう球を投げたけど、どうだった?”という質問に対する答えが、しっかり得られなかった。“OK.”か“No good.”……いいか悪いかしか聞けなかったんですね。自分で映像を見るより、やはりキャッチャー目線が一番分かるんじゃないかな、と思うことも多かったので。ロッテの(ブルペンキャッチャーの)中溝(雄也)さんがいらした間は、そのへんもすごく助かりました」

――年明けごろには、生活も野球も落ち着いてきた?
「はい、だんだんよくなりましたね。任されたイニングをしっかり抑えられた場面が多く、最後のほうは長いイニング(5イニング)を投げても抑えていたので、よかったです。ある程度は、自分の力を出せたのではないでしょうか」

――そのころは、ABL生活も3カ月。どこが一番たくましくなっていましたか?
「自分でなんでもできるようになりましたね。それまでは人に合わせて、人と一緒じゃないと何もできないようなところがありましたが、そのころには自分で考えて、行動できるようになっていたと思います。初めは食事に出るのでも、いろんな選手に声を掛けまくっていたんです。でも最後のほうは、一人で行けるようになりましたし。最初はあんなに苦労した覚えがあるのに、最後のほうはこんなに簡単に行けるもんだったんだなと思いました(笑)」

 

もう一度自分自身を見つめ直す

――帰国後、香川から福井ミラクルエレファンツに移籍しました。どうして移籍を考えたのですか?
「言い方は悪いですが、香川にいると自分がぬるま湯に浸かっているような気がしたんです。だから、自分自身をもう一度厳しい環境に置いてやってみたいという気持ちが一番強かったですね。香川にいれば、絶対に使ってもらえる。その中で“自分の目標は何か?”と考えたときに、やはり“上に行く”ということだったんですね。レベルの高いところを目指してやっているのに、香川で自分の調子がよくなくても抑えられたことに、自分自身納得がいかなくて……。だから、香川の球団自体がどうこうというのではなく、自分自身に甘えが出たのが一番の理由です。その甘えを断ち切るためにも、ABLから帰ってきたとき、改めて一から信頼を作っていかなければならないような環境に自分を置きたいと思いました」

――それでリーグを変えようと?
「そうです。リーグを変えて、もう一度自分自身を見つめ直す。一からやっても力を発揮できるような選手になっていきたいなと思いました」

――それだけのことはこのオフもやってきた。自信はあるのでは?
「自信もある程度はあるし、楽しみな部分が多いですね。1年目からフル回転して、チームの優勝に貢献できるよう、頑張っていきたいなと思います」

――最初に自分とNPBの選手たちを比べたときは、「立ち居振る舞いが……」と言っていましたが、最終的にはどうなりました?
「プレーの部分、技術の部分では個人差があるので分かりませんが……。ただやはり、NPBの選手はメンタルの部分でさすがという面が多々ありましたね。自信を持っている選手が多かったです」

――Honda熊本の菊江龍投手も、「(NPBで活躍する選手には)一本、芯がある」とおっしゃっていましたね。
「そうですね。何が、と言われたらうまく説明はできないけど、一人ひとりの中に何か1本の軸となるものがあって、そこからいろいろやっている部分は垣間見えました」

――原田投手もそういうものができてきましたか?
「自分自身は、“野球がうまくなりたい”というのが大きいんです。ところが去年、それが思うように行かなくてイライラ、じゃないけどダメな部分が出てきてしまった。だから環境を変えて……海外にも行ってみて、“野球って楽しいものだな”というのはとても感じましたし、もっとうまくなりたいという気持ちができてきました。そこは僕の中で一番の芯だし、これからも大事にしていきたいと思います」

――「ABL初参加のニュージーランドチーム一期生が、福井を独立日本一に導きNPB入り!」と来季、ニュースが出ることを祈っています。
「ぜひそうなりたいですね。頑張ります!」

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