野球が大好きだから/青柳昴樹

今回、横浜DeNAからキャンベラへ派遣された4人の中で、最年少の21歳。唯一の野手である。当初は派遣を希望するかどうか迷ったというが、今はチームのスタメンにも連日名を連ね、攻走守に輝くものを見せている。

Kouki Aoyagi – Canberra Cavalry – Photo: SMPIMAGES.COM / ABL MEDIA – Action from the Australian Baseball League (ABL) Round 3 clash between the Auckland Tuatara v Canberra Cavalry played in Auckland.

強豪・大阪桐蔭高校の出身。2年夏にはクリーンアップを打ち、甲子園優勝も果たした。横浜DeNAに入団し、3年。ルーキーイヤーからファームの試合にも数多く出場し、球団から将来性を見込まれていることは明らかだ。なんといっても、“まだ21歳”なのである。

しかし、青柳本人の見方は違った。
「プロ入りしてから3年間、僕は一軍に上がれなかった。(プロに)入ったからには、21歳だからとか、年齢に関係なく結果を出さなければなりません」

忸怩たる思いを抱えたまま、終わろうとしていた3年目のシーズン。「何かを変えなければ」と思っていたとき、球団がABL派遣選手を募った。横浜DeNAとキャンベラ・キャバルリー。両球団で締結された、新しいプロジェクトの手始めとしての選手派遣である。

「自分みたいな選手が行っていいのかな」と、初めは迷った。そんな折、西森(将司)選手と食事に出かけ、「オーストラリアに行きたいんですが、迷っているんです」と話をした。すると「行きたいと思っているのに、行かない理由はないだろう?立場なんて関係ないと思うよ」と西森選手に諭された。

「確かにそうだな、と思いました。自分を変えたいと思っているのに、ここで引いてしまったら成長できない。覚悟を決めて、手を挙げました」

言葉も文化も生活様式も違う中、カベを感じることもあるだろう。しかし、すべては自分を精神的にも成長させるため。ひいてはバッティング向上につなげるため。“若いからミスをしてもいいや”とは絶対に思わず、失敗も含め、プラスに捉えていこう、と心に決めた。

ABL公式戦が始まると、いきなり『九番・ライト』でスタメン出場。開幕からヒットを重ね、順調なスタートを切った。しかし、その後ヒットはピタッと止まった。

「正直こんなに試合に出られるとは思っていなかったので、使ってもらって期待に応えたいという気持ちは強くありました。ヒットが止まって、気持ち的に何か変えなければいけないな、と思いました」

 

バッティングはタイミング

それまで自分には、少し受け身なところがあったと思う。コーチに対して自分から積極的にアドバイスを求めに行かなかった。だが、特にこの国では自分から積極的にアピールしなくては、何も始まらない。野球だけでなく日常生活で街に出たときも、身に沁みて感じたことだった。その代わり、自ら言葉を発し積極的に行動すれば、ほとんどの人が親切に助けてくれるのも、この国の特長だ。

「監督、コーチに話を聞き、こちらのピッチャーは日本のピッチャーに比べてタイミングが早いので、バッティングの時もう少し早めにタイミングを取ったほうがいいとアドバイスをもらいました」

日本のピッチャーは比較的ゆったりしたフォームだから、タイミングが取りやすい。それに比べ、ABLの(日本人選手たちからすると外国人)ピッチャーたちは皆、クイックで投げてくるイメージで、どうしても差し込まれてしまう。やはりヒットの出ていなかったオークランド・トゥアタラの平沢大河選手(千葉ロッテ)と話したところ、青柳と同様に「タイミング」を課題に挙げていたという。

「日本だと、“タメて打て”と言われることが多いです。でもこちらのコーチは、“いつでも打ちにいける準備をしておけ”と言う。頭ではわかっていても、体での対応がなかなかつかみきれなかったですね」

練習や試合が終わり、ホテルに帰ってからもガレージで一人、素振りした。特に試合後は打席での反省を踏まえ、バッティングを修正。気持ちを切り替え、次に翌日の打席をイメージしながら振った。

「アドバイスされたとおりのタイミングが取れたとき、みんなが“その打ち方、いいよ”と口に出して褒めてくれたんです。自信になりました。それでヒットが出たら、みんなが喜んでくれて……」

ノーヒットに終わった日には、仲良くなった選手が「昨日は昨日。今日また頑張って、野球を楽しんでいこう」と言い、明るく励ましてくれた。

「“野球を楽しもう”なんて、そんな感覚は中学生くらいまででした。高校は負けたら終わり、のトーナメント。プロに入ってからも、打たなければ翌日の試合に出られない、厳しい世界。そういう意味では、楽しんでプレーできていませんでしたね」

キャバルリーのチームメイトには、実にいろいろな背景を持った選手がいる。このABLでチャンスを掴み、MLBからのスカウトを待つ選手、ABLの給料だけでは暮らして行けず、仕事を掛け持ちしながら野球をしている選手、マイナーリーグからなんとかメジャーに上がろうとしている選手……。共通しているのは皆、本当に野球が好きなことだ。

「僕自身、こっちに来て改めて自分は野球が好きなんだな、と感じました」

大好きな野球だから、何があっても頑張れる。あと1カ月。どんな時間も、どんな学びの瞬間も無駄にせず、このオーストラリアで成長を遂げる。

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