Kuni’s kitchen/国吉佑樹

育成選手から這い上がり、先発に、リリーフにと働き場所を求めてきた。来季、プロ入り10年目。区切りの年を前に家族を日本に残し、3カ月もの長きにわたるABL行きを決めた国吉の決意とは――。

Action from the 5th Round Match of the 2018 / 2019 Australian Baseball League between Adelaide Bite and Canberra Cavalry Photo: Ryan Schembri – SMP Images / ABL Media

来季(2019年)、NPBで10年目のシーズンを迎える。

10年、育成ドラフト1位で横浜DeNAに入団した。背番号は3ケタの111。まずは“支配下登録”を勝ち取らなければ、一軍の試合に出場することができない。ゴールは同じでも、スタート地点がドラフト指名選手たちとは違うのだ。国吉も、「“その先”を目標にするためにも、まず支配下登録が目標だった」という。

しかし逆に言えば、彼らが“支配下登録”されるのは、一軍で必要とされたとき。2年目の夏、ついにそのチャンスが巡ってきた。

「初めは(自分が育成選手ということで)一軍に上がれる、上がれないの違いがありました。だけど支配下登録されてからは、(ドラフト指名選手と)同じ条件で戦っていると思っています。育成かドラフトか、あるいはドラフトの順位も、関係ありません」

9年目のシーズンが終わり、同期入団の選手はもはや数えるほどしか残っていない。その一人が筒香嘉智。チームの主軸に成長した彼の活躍は、もちろん良い刺激になっている。だが彼と自分と比較して、焦ることだけはないように。足元をしっかり見つめ、自分のなすべき仕事について、考えている。

「若いころは、誰でも一軍で活躍することを目標にしています。“先発で10勝”とか、バッターならホームラン何本、打率何割とか、具体的な数字を挙げてね。僕は今、とにかく“第一線でやること”が目標。チームの足りないピースに入って、カチッとはまれば、それで戦力としてOKだと思うんです」

首脳陣の考えるポジションで、相応の働きをし、「国吉がいて良かった」と言われることが、まず目指すべき仕事なのだ。“若さ”も武器になる、この世界。国吉もまだ27歳とはいえ、もはや若さで勝負できる年齢ではない。年を重ねれば重ねるほど、天賦のものだけではチーム内の競争に勝つことが難しくなってくる。そこで必要な武器を増やすため、自分自身の引き出しを見つめ直すため、ABL派遣に手を挙げた。

「日本では1試合毎の自分の成績が、契約内容に反映されてくるけれども、ABLでは、それがない。キャンベラの一員として戦う以上、チームの勝利につながる働きをするのは当然ですが、日本で投げているのとはその辺りの余裕が違います。だからこそ、日本の試合でやりたくてもできないことにも、トライできるんです」

 

料理はレシピ通りでも野球は違う

NPBでは、誰もが『国吉佑樹』というピッチャーのスタイルを知っているところから始まる。しかしABLでは、味方のキャッチャーでさえ国吉について、まっさらな頭でリードする。

「だから、面白いですよ。同じボールを続けたり、カーブのサインが多かったり。カーブは最低でも1人1打席、1球は投げているんじゃないかな。続けて投げた2球目を打たれたこともあるけれども、もしもっと低めに入っていたらどうだったのかなとは思います」

ABLとNPBとでは、野球のスタイルが全く違う。ABLはまさに力と力の勝負であり、大胆な野球。NPBでは作戦が第一で、打順やポジション、状況によってもまた変わってくる。ABLにもバントなど細かい野球はあるものの、基本はピッチャーが投げて、バッターが打ち、野手が捕る。データもなきにしもあらずだが、NPBのそれに比べれば、実にざっくりしたものである。

「その分、バッターの反応を見ながら、自分の試したいことができるんです。シンプルに、バッターに対して投げることに集中して。日本のシーズンでは見えなかった野球の見え方、新しい発見がそこにある。これからも投げれば投げるほど、どんどん出てくると思います」

ところで――国吉の今回のABL参加は、11月から1月19日までのフルシーズン。クリスマス、正月もオーストラリアで過ごすことになるし、1月、帰宅したかと思えば10日ほどでもうキャンプイン。また1カ月ほど家を空けることになる。夫人と子どもたちには、どんなふうに話し、家を離れてきたのだろうか。

「そうなんです。球団には行きたいと希望したものの、“これは一人では決められないな”と思いながら、家に帰りました。でも“実はこういうものがあって……”と話したら、“行ってきていいよ!”とむしろ妻に背中を押されてきました」

オーストラリアでの自炊生活も、周囲に『KUNI’s kitchen』(クニのキッチン)と呼ばれるほど、手慣れたもの。栄養、彩り、ボリュームすべて満点の手料理で、横浜DeNA組の胃袋を支える。「あるもので適当に作っている」と言うが、周囲の証言によれば、結構こだわりもある。

目の前にある素材に合わせて、自分の引き出しの中にあるレシピの断片をつなぎ合わせ、料理する。その創意工夫の能力は、野球にもつながるものがありそうだが……。

「いやいや、料理はレシピ通りに作ればうまくできるけど、野球は違う。なんといっても、野球には相手がありますからね」

そこは残り1カ月、まだまだ“バッター料理”の腕も、磨けるはずだ。

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