阪口皓亮(キャンベラ)投手インタビュー「“野球を楽しむ”ことの大切さをABLで教わった」
2018年10月、U-23ワールドカップで強豪・ドミニカ共和国相手に7回無失点の好投。実はこのW杯でのコロンビア遠征が、今回のABL派遣に手を挙げたきっかけになったという。19年はプロ初登板初先発も果たし、3年目の来季は先発ローテーション入りが期待される、横浜DeNAベイスターズ期待の新星。ABLでの経験を、その礎にしたい。
――ABL派遣に立候補した理由から教えてください。
「昨季、今永(昇太)さん、クニ(国吉佑樹)さんたちが行って今季、確実に高いレベルでいい成績を残したので、僕も何か掴むきっかけになるんじゃないかと思いました。もう一つに18年、U-23日本代表としてコロンビアに行かせてもらって、他国の文化に触れたことが、僕の人生の中で非常にいい経験だったんです。またそういうチャンスがあるのなら、積極的に参加したいと思っていました」
――コロンビアの場合はチームとしての遠征だったけれども、それでも強烈に印象付けられたことがあったのですね。
「街並みから野球の違い、球場の雰囲気……何もかもが日本と違いました。そういったところを見て、空気に触れるだけでも、人生においては勉強になるなと思いました」
――今永投手はじめ昨季ここに来た方々からは、具体的にはどんなお話を聞いてきたのでしょう。
「キャバルリーはとてもいいチームだということ、それから英語も勉強できるよ、と。あと自分の時間が多いので、トレーニングをするのも何をするのも自分次第だということですね。プロに入ってからも、そういう考え方でできていない面が結構ありましたから、自分次第でどうなるか、ちょっとやってみたいという気持ちもありました」
――ABLに参加する期間を、クリスマス前のラウンド5までにしたのは、なぜですか?
「2年間、ケガをせずにはやってきましたが、少々の休養も必要かなと思いました。19年は一軍で少なからず投げさせてもらって、昨年以上の疲労が残っているのではないかと思いましたから。また、1月には来季に向けて、国内で準備をしたいこともありましたので、年内限りにしました」
――先ほどABLに来た理由の一つとして、「何か掴むきっかけにしたい」とおっしゃいましたね。この2年プロでやってきて、掴みかけているんだけど掴み切れていないような何かがあったのですか。
「ずっと調子がよかったり、悪かったりを繰り返しました。100のときもあれば、悪いと10とか20とか。両極端の成績が多かったんです。じゃあなぜいいのか、なぜ悪いのか。その原因を僕自身、分析し切れていませんでした。じゃあいいとき、悪いときに“どういう体の違いがあるのか”といったことを、こちらで見つけられないかな、と。そのために何かを試すのなら、ABLのように振ってくるバッターが多いところがいいかなと思いました」
――そして約1カ月半。何かご自分の中で見えてきたもの、掴めてきたところはありますか?
「ここ最近僕自身、どこか野球を楽しめていないなという部分があったと思うんです。成績ばかり気にして……。結果がすべての世界なので、それは仕方ないんですが、でもやはりそれだけではないんじゃないか、と。野球が好きになって野球を始めて、野球が好きだからこの仕事に就いているのに、その野球を楽しめていないなんて、やはりちょっと違うかな、と思ったんです。キャバルリーのみんなを見て改めて、勝ち負けはもちろんあるけれども、その中で“野球を楽しんでやっている”ことを強く感じました。そして、そこが一番僕に足りていなかったところだと思いました」
――「野球を楽しんでやる」と、どう変わってくると思いますか?
「“楽しむ”といっても、ヘラヘラやるわけではないんですよ。でもシドニー戦に7回2失点と、ABLに来て一番いい成績を収められたときは、打たれても“あ、こういうバッターもいるんだな”とか“ここを打つなんて、レベルが高いんだな”とか、どこか勝負を楽しんでいる自分がいたんです。もちろん抑えればチームのみんなも、ファンも喜んでくれる。“ああ、僕が子どものころ目指していた野球、やっていた野球はこんなに楽しかったんだ”と思いました。これが野球なんだ、と改めて感じさせてもらいましたね」
――阪口投手は、かなり積極的に他の選手たちとも会話していましたね。印象に残る選手は誰でしょう。
「(スティーヴン)チェンバース(投手)は日本語がしゃべれるので、たくさん話をしてくれたし、何かと助けてくれました。僕の中では同じ先発のJ.J.(フーバー投手)が勉強になる、いい存在でした。“楽しい”という話も、実はJ.J.が“日本人はどこか成績を気にして、あまり野球を楽しめていないふうが顔に出ているよ”と言ったことから来ているんです」
――フーバー投手はメジャーでも6年、288試合に登板した実績のあるピッチャーですね。
「そうなんです。実績も経験もある選手なので、いいお手本にさせてもらいました。オークランドでの先発のあと、J.J.と“(マウンドで)テーマはあるか”という話をしたんです。で、その話が終わったとき、“どこか楽しめていないんじゃないか”と言われました。“野球はそうそう打たれるものじゃないよ。打たれても3割なんだから”“そんなガチガチに投げなくても、バッターは打ち損じてくれるものだよ”と。そう言ってもらって、心も体もなんだかすごくラクになりました」
――フォームがどうこうとか細かい四隅を突かなきゃとか、それういうことばかり考えず、まずは楽しんで投げろ、と。
「そもそも野球を楽しめていないと、技術も付いてこないと思うんです。だから、根本的なところですよね。初心に帰るというか。小学生のとき、野球を好きになったから野球を始めて、野球が楽しかったから、ここまで野球を続けている。その楽しさをもう一度しっかりABLで感じて、日本で来季に臨めたらいいなと思います」
――来季は高卒3年目のシーズン。傍から見ればまだまだ若いといえば若いですが、ご自身の中ではどんな位置付けの年になっていますか?
「こういう世界なので、(高卒であっても)1年目から勝負はし続けているつもりです。ただ、成績はうまく伴ってきていないですよね。19年、村上(宗隆選手=東京ヤクルト)が新人王を取るなど、同級生は2年目からどんどん出てきています。その中で僕はまだ、スタート地点にも立っていないと思っているので、来季はそういう、前を走っている同級生の選手たちに追いつけ、追い越せで頑張りたいと思います」