自分探し/齊藤大将

「勝つことより自分の投球を確立させること」をメインテーマに過ごした、約1カ月。埼玉西武・齊藤大はついにABL通算防御率0.00のまま、帰国の時を迎えた。
しかし、その表情は決して緩むことがない。本当の勝負はこれからなのだから。春季キャンプに向け、切れ間のない準備が始まる。

HIROMASA SAITO – Action from the 2nd Round Match of the 2018 / 2019 Australian Baseball League between Adelaide Bite and Melbourne Aces played at Bennett Field, West Beach, South Australia Photo: Ryan Schembri – SMP Images / ABL Media]

ABLでの通算成績は11試合に登板、16.1回を投げ被安打6、与四死球6の防御率0.00。奪三振は投球イニングを超える21個だった。
メルボルン・エイシズのジョン・ディーブル監督にも信頼され、リードした場面での中継ぎ、抑えとして起用された。

「結果として0点に抑えているだけ。投げ損じの球を打ち損じされたこともあるので、防御率0.00は、気にしていません」

むしろ、と齊藤大は言った。
「今0点に抑えているから良かった、と思われているのが、イヤなんです」――。

桐蔭学園から明治大学を経て2018年、ドラフト1位で埼玉西武に入団。プライドも自信もあっただろう。春季キャンプは一軍に帯同したが、オープン戦で打ち込まれ、プロ初の開幕を二軍で迎えた。

「プロ入りまでやってきたことが、できなくなった時があったんです。1年間、しっかり球を投げられなかった。球が抜けたり、荒れて散らばったり。狙ったところに行かず、強い球も投げることができませんでした」

7月20日、一軍に昇格し、以降は貴重な左の中継ぎを務めた。29日の千葉ロッテ戦では、プロ初勝利もマーク。しかし齊藤大にとって、ルーキーイヤーは到底納得のいくものではなかった。

「これではうまくいかないんだろうな、とずっと不安でした。結局1年目は、まだプロとしてのスタートすら切れなかった。むしろマイナスからのスタートになってしまいました」

そして迎えたオフの、オーストラリアABL参加。メルボルンでは日本同様、リリーフを任された。ブルペンで投げながら、あるいは試合で投げながら一つひとつ、「これまでできていたこと」の確認作業が始まった。

ここでのゴールは、「自分の投球を見つける」ことだ。だから、結果より内容を大切に。1球1球、ボールの感覚を確かめながら投げた。良かったときの感覚は、自分が一番よく知っている。

日々一つひとつ、自分の考えていること、やろうとしていることができるようになってきた。オーストラリアに来てからというもの、右肩上がりに自分のレベルが上がってくるのを実感した。

 

1年目の失敗はもう、繰り返さない

 

日ごろから感情をあまり表に出さず、クールに周囲を見ているところがある。

「僕、海外でプレーするのも3、4回目なんですけど、ABLって一つのプレーにブーイングしたかと思うと、すぐ熱くなって、退場寸前まで行く選手が多いんですよ。スイッチの入りどころがわからない(笑)」

そんな環境で、自分もどこか肩の力が抜けたのか。「考えすぎたり悩んだりせず、ポンポンやったほうがいいんだな」という新しい発見もあった。

「そうして一つひとつやっていく中で、自分には“これができれば、修正できる”というものがなかったことに気づきました。果たしてこれまでの自分には、引き出しがあったのか。もしかしたら、なかったんじゃないか、と」

野球やピッチングに対する、自分の考え方そのものは、継続していっていい。ただもう少し、いろんなことを試してみよう。『自分探し』をしてみよう。ABLのスコアボードに0を刻みながら、齊藤大はさらに上を向いた。

「ABLで防御率0点に終わって良かったけど、日本に帰ったらまた同じ、じゃあ仕方ない。オーストラリアに来て良かった、というものを一つでも多く残して、1年目のような失敗は、もう繰り返さないようにしなければ……」

“特別スピードがあるわけではないが、フリスビーを投げるような独特の投法で、バッターを幻惑するサウスポー”

ABLではこんなふうに評され、絶賛された。もう一つ、齊藤大の特長を付け加えるなら、「とびっきりの負けず嫌い」。

「だって、齊藤大はこんなもんかと思われたままじゃあ、悔しいじゃないですか」――。

オーストラリアで蘇った球と自信で、NPBでも0行進を目指す。

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