早川隆久投手(パース/東北楽天)インタビュー☆「いろいろな経験をしながら本気で野球ができるABL。今、野球を楽しんでいます」

photo: ABL Media

第3ラウンドからパースに合流後、3試合に先発し3勝。「さすが、(アジアチャンピオンシップ)日本代表」と、瞬く間にABLでもスターダムを手にしました。インタビューからは、オーストラリア生活も含め、野球を楽しんでいる様子が伺われました。

 

ABLに来て初心に返った

――このオフABLでプレーすることを決めたのはいつごろ、どんな理由からだったのでしょうか。

9月ごろ自分の意思を(東北楽天)球団に伝え、ABLのチームと交渉を始めてもらいました。今季、1カ月ほど登録抹消されたこともあって一軍であまりイニング数を投げられなかったため、それを補う目的が一つ。また自分は夏場の離脱が多いので、日本とは季節が逆のオーストラリアで、その対策を考えることができるのではないかと思ったのも理由の一つでした。

――以前から、ABLについての情報はいろいろご存じでしたか?

はい、過去には今永(昇太=横浜DeNA)さんが参加したとか、ABLの情報は把握していて、行ってみたいなと思っていました。去年、キャンベラでプレーした入江大生(横浜DeNA)にも具体的な話を聞きました。アメリカのマイナーリーグの選手や、メジャーリーグのプロテクトの掛かっている選手もいて、リーグ自体のレベルは決して低くない。いろいろ吸収できるものがあった、と話してくれました。ウインターリーグといえば台湾や中南米でも行われていますが、環境やレベルを見てもABLが一番自分に合っているかなと思い、ここに決めました。

――(インタビュー時点で)まだ二度の登板ではありますが、ABLのバッターやピッチャーについて感じたことは?

バッターはNPBに“助っ人”として来ている選手と似たような選手もいますし、逆に日本人バッターにタイプの近い選手もいますので、抑え方は勉強になりますね。また、パースのキャッチャーのアレックス・ホール(23年WBC、アジアプロ野球チャンピオンシップのオーストラリア代表捕手)はアメリカのマイナーでプレーして、昨年はメジャーにも呼ばれた選手。彼の配球からも学ぶことが多いので、自分としては非常に成長できているかと思います。

――バッテリー間のコミュニケーションはどうやって取っているのですか?

最初の2週間はトレーナー兼通訳として、球団の方が同行してくださっていたんです。そこでいろいろ助けていただきながら、コミュニケーションを取りました。残りの2週間は自力です。ヒアリングはなんとかなるんですが、話すほうは翻訳機を使いつつ頑張っています。

――そうしたなかで、思わぬ発見や学びはありましたか?

「初心」に返っているな、という感じがしています。ABLはNPBに比べると、環境が完璧に整っているわけではない。そのなかでABLの選手たちは工夫しながら練習しています。それを見て、自分たちがいかに恵まれた環境で練習も試合もしているかを改めて実感しました。と同時に自分自身、初心に戻ることができている感覚がありました。

――早川投手の“初心”というと、いつごろになるのでしょう。

高校生ぐらいまでですかね。大学生のころになると、ある程度環境が整っていましたから。僕たちも高校まではダブルヘッダーで試合をすることがあったんですが、大学生以降はもうなくなりました。でもABLではダブルヘッダーの試合もあり、第1試合で着たユニフォームを上だけ着替えて第2試合に臨むんです。NPBなら同じユニフォームが何着もある。そうした面でも、いかに恵まれているかが分かりました。

――早川投手が目的としていた、夏場のコンディションの整え方については、答えが見えてきましたか?

イニングも球数も投げさせてもらいながら、いろいろな調整方法を試すことができていますね。そういう面でチャレンジもできていますし、どの調整方法が自分に最も合うか考えながら試合に臨んでいます。

 

自分にとって心地よい場所

――第4ラウンドのシドニー戦(12月9日)では、ダブルヘッダー第1試合の7イニングを2安打完封。あの試合では、最初から7イニング行くとご自分のなかでもベンチでも思っていらしたのでしょうか。

「球数100球以内で投げてこい」という感じなので、そのなかでどうゲームメークをするか考えていました。ただ、ダブルヘッダーの1試合目でイニングも7回ですから、ベンチとしても、やはり「先発が7イニング投げてくれたらありがたい」と思っているわけで。自分はその期待に応えられるよう、投げています。

――例えば7イニングを投げ切りたいと思ったら、1つ1つのアウトの積み重ねで考えますか? それとも7イニング完投から逆算していく感じですか?

やはり積み重ねですね。先発の場合はゲームメークもしなければいけないんですが、ここABLでは結構頻繁にピッチャーをスイッチする傾向がありますから。アウトカウントを1つずつ丁寧に取っていって結果的に7回、ということを心掛けています。

――試合中、マウンドから内野手に何か指示を送っているような様子も見られましたが、あれは?

登板数が少ないので、野手もまだ僕の投球スタイルがあまり分からないなかで守るのは難しいと思うんです。そこで1戦目からバッターのスイングの傾向などを見ておいて、ベンチで野手とも会話をしていました。加えて、試合のなかで自分が少し野手の守備位置を動かすこともありましたね。

――生活面では、何か「オーストラリア、びっくりしたわ~」というようなことはありましたか?

食生活を見ていると、日本人の自分からしたら「これを毎日食べて生活できているのはすごいな」と思う部分がありますね。日本食の健康さは感じました。僕もトレーナーさんの帰国後は自分で食事を作っているので、食事の面ではそれほど苦労はしていないんですよ。日本の食材が限られるなかでも、なんとかできることをしていると思います。

――オーストラリアでの今の生活、野球、楽しんでいますか? それとも早川投手にとってはやはり真剣勝負の場であり、NPBのシーズンとは変わらない?

日本と違って、と言うと申し訳ないのですが、ABLはオーストラリア国内でも注目度があまり高くない。オーストラリアン・フットボールやクリケットのほうがメディアの中心であることが、こちらに来て改めて分かりました。そういう面でも自分のなかでは、ここはいろいろな体験をしながら、本気で野球ができる場所。探りながら、試しながらも本気で野球に挑んでいる。心から野球を楽しめています。

――その経験を来季にどう生かすか。あるいは人生の一経験として、早川投手の人間的な部分にどう生きていくと思いますか?

野球の面では、パースのコーチが非常に的確なアドバイスをしてくださる方で、自分のためになるものが多くありました。ブルペンで投げていたとき、ある球種についていいときと悪いときの違いをズバリ、指摘されたんです。そして、「こうやってボールを放せば、いいボールが行く」と教えてくれました。ここでの経験を自分の引き出しのなかに入れて、NPBのシーズンにも生かしたいと思います。

また人生経験としても、オーストラリア人はとても温かい方が多くて、自分もこんな寛大な人間になりたいなと強く感じました。優しくて、だけどあまり他人に関与しすぎない。人との距離感も、僕にとっては心地よいですね。なんならABLのシーズン最後までいたいぐらい、住みやすい場所。また帰ってきたいです。

Profile
はやかわ・たかひさ●1998年7月6日生まれ、千葉県出身。木更津総合高から早稲田大を経て、2021年ドラフト1位で東北楽天に入団。3年目の今季は二度の登録抹消もあり、17試合の先発登板で6勝7敗、防御率3.44の成績に終わった。11月のアジアプロ野球チャンピオンシップでは日本代表に選ばれ、1次リーグのオーストラリア戦に先発。5回を無安打無失点、7奪三振のパーフェクト・ピッチングを見せた。

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