☆小東良投手(オークランド)インタビュー☆ABLでの経験をさらに海外で生かし、ステップアップの糧にしたい

PHOTO: Ryan Schembri / Adelaide Giants | Action from the Australian Baseball League 2022/2023 Semi-Final clash between Adelaide Giants vs Auckland Tuatara played at Dicolor Australia Stadium, West Beach, South Australia ⒸSMP Images/ABL Media

社会人野球のクラブチームから、独立リーグを含めた日本のプロ野球を経由せず、ABLのマウンドを踏んだトゥアタラ・小東良投手。アデレード・ジャイアンツとのセミ・ファイナル第3戦で先発マウンドを任されるなど、チームの信頼を勝ち取った。実はこの小東投手、トゥアタラの日本トライアウトでは不合格だった。そこから始まった「ラッキーボーイ」ストーリーを聞いた。

大きな決断がABLとの出合いに

――トゥアタラに入団するまでの経緯から教えてください。

専門学校を卒業後、昨年9月まで会社勤めをしながら、その会社のクラブチームで野球をしていました。でもあるとき、「自分はこのまま野球人生を終えていいのかな」と思ったんです。「また別の野球チームで様々な経験をし、より上のレベルを目指すことも、まだまだできるのではないか」と考えるようになって、首脳陣や会社に相談し、野球部を退団。同時に会社も退職しました。

――それは思い切った決断でしたね。

そうですね。4年半勤めていましたし、周りの方々にも、かなり止められました。会社のトップの所長さんまで話をしに来てくださって……。最終的には、温かく見送っていただきました。

――そこから自分でトレーニングをしながら、次の球団探しをしていったわけですか?

最初はこの春から独立リーグに行こうと思い、トレーニングをしながら知り合いのツテを頼って、トライアウトなどの道を探していました。(独立リーグの)1球団でトライアウトを、という話になったのですが、実戦投球を見ていただく機会が雨で流れ、そのまま(獲得が)見送られてしまいました。その後、トゥアタラの(日本での)トライアウトの話を知人から聞き、入団できる、できないはともかく、何かしら次のステップに進む機会になるのではないかと思い、応募しました。

――トライアウトの出来はいかがでしたか?

少し寒い中でしたが、自分としては体も結構よく動いていましたし、ワンチャンスあるかなとは思っていました。(ダッシュ、フィールディング、ブルペンピッチングを経て)最終試験のライブ・ピッチングまで残れたということは、自分に何か選手として価値があるのだろうと前向きに考えていました。

――トライアウトでは合格に至りませんでしたが、その後、どんな経緯でオークランドに呼ばれたのですか?

トライアウトの1週間後、合否のメールが届きました。そのとき「今回のトライアウトでは不合格となりました。しかし、あなたのコントロールやスライダーをミンツ監督も評価しているので、オークランドに来てクラブチームで野球をしながら、(ロースター入りを目指して)トレーニングしませんか」とオファーをいただき、「これはもう、行くしかない」と思いました。

ABLの選手として初めてファンにサインを書いた記念の1枚(写真は小東投手提供)

――ABLの開幕に合わせて、オークランド入りしたのですか?

いえ、チームが開幕から2週間、オーストラリア遠征に出ていたので、最初のホームゲームに合わせて11月22日、オークランドに入りました。そこからクラブチームの練習に参加しながら銀行口座を作ったり、車を探したり……当初、アルバイトをしながら野球をしようと思っていましたので、面接に行くなど、生活インフラを整え始めました。すると、2日後ぐらいにトゥアタラから「チームの一員として契約します」と話が来て……。私はラッキーボーイだったと思います。

――それでいきなり、11月26日(シドニー戦)の初登板を迎えたんですね。

そうなんです。でも最初に入ったホテルが村田透さんと相部屋で、分からないことをいろいろ教えていただきました。そこは環境的に、とてもいい入りができたので、感謝しています。

――初登板ではどんなことを感じましたか?

日本人との最も大きな違いは、パワー。ちょっとでも間違えばホームランを打たれる、その怖さは肌身に感じました。私はいい投球をしようとするあまり、返って力むことが多くて……。あのときもそうだったんですが、マウンドの高さや外国人キャッチャーとのコミュニケーションなど、慣れない環境のなかとはいえ、もう少しいい投球ができたんじゃないかとは思いました。あと、日本では先発を務めていて、リリーバーとして投げることがほとんどなかったので、ブルペンでの準備の難しさを感じました。

――ABLでは結構、急に指名されるといいますもんね。

予想だにしないときに自分の名前をコールされ、「すぐ作って」という形でしたね(笑)。体の調整も、メンタルコントロールも非常に難しかったです。

――そのなかでさらに上のレベルを目指す、ご自分のスキルアップのために、日ごろからどんな意識をもって練習やゲームに臨みましたか?

私の場合、体も小さく、特別球速が速いわけではないので、自分としてはコントロールが一番大事だと考えていました。しかし改めて自分の現状を見直すと、まだ到底上を狙えるレベルではない。上を狙うためには、やはりストレートの球速を上げることにフォーカスする必要があると思いました。ところが自分が心地よいフォームで投げると、今までと同じで球速が出ない。自分を変えるためには、フォームも思い切って変えなくてはいけない部分があり、トレーナーの広瀬さん初め、いろいろな方のアドバイスを受けながら、取り組んでいきました。

――そこは形になってきましたか?

自分で「これがいい動きなのではないか」と思ってやってみても、人には「ここがこうなっているよ」と指摘されてしまうとか、今度は別の動きが変わってしまうとか。フォームを試行錯誤するなかで、変化球の曲がりやコントロールが少しずつ変わっていって、シーズン序盤に比べ調子を落とした時期もありました。野球は連動した動きを作り出さなければならないスポーツなので、そこは難しいところです。まだまだ取り組まなくてはいけない課題が山積しています。

プレーオフ先発での学び

PHOTO: Ryan Schembri / Adelaide Giants | Action from the Australian Baseball League 2022/2023 Semi-Final clash between Adelaide Giants vs Auckland Tuatara ⒸSMP Images/ABL Media

――チームは北東地区の2位に入り、プレーオフへ進出。アデレード・ジャイアンツとのセミ・ファイナルでは1勝1敗で迎えた第3戦(1月29日のダブルヘッダー2戦目)、小東投手が先発のマウンドに立ちました。いつ、先発を告げられたのですか?

そのときまで、全く何も知らされていませんでした。(28日の第1戦を落とし、29日の)2戦目はリリーフとして、ブルペンでずっと準備していました。第2戦に勝って、続く第3戦もリリーフかなと思いながらダグアウトに帰ったら、「次の試合、良が先発だぞ」と監督に言われまして。「よし、チャンスだ」という感じでした(笑)。

――そこで「よし、チャンスだ」と思えたのはすごいですね!

はい、もうずっと先発をしたかったので。そこは自信がありました。実際、自分で思っている以上には緊張もせず、入りもいい感じで投球できたと思います。

――1回、2回と順調に抑えましたね。

変化球を低めに決めることができ、バッターも打ち気にはやって、よく振ってくれました。ただ3回、先頭打者にデッドボールを与え、そこで流れが少し変わってしまいましたね。次打者(リアム・スペンス)に2ボール0ストライクとカウントを悪くして、高めに浮いた甘い変化球を打たれました(三塁打)。あとから動画を見返すと、3回の投球は全体的にちょっと高めに浮いていたので、そこは反省点です。

――2点を取られたあと、一番のニック・ウォードを二塁ゴロに打ち取ったところで、交代になりました。

さあ仕切り直し、というところで交代したので、非常に悔しい回になりました。自分としては最低5イニング、無失点に抑えたかった。それまでに捉えられてしまったので、自分のストレートにしてもコントロールにしても、まだ実力不足だったということだと思います。

――とはいえ、セミ・ファイナルまで投げたことで収穫もあったのでは?

自分の持ち味は、変化球を投げて相手を惑わすような投球ができること。そこはプレーオフでも通用した場面が多くありました。変化球を2球続けて、最後に強いストレートで打ち取ったり、空振りを取ったり。今の自分の投球でも抑える方法があることに、プレーオフで気付かされました。ただ、やはりより高いレベルに進もうと思うと、変化球だけで勝負はできません。生きたストレートがあってこその変化球だということも、改めて学びました。

――今後については?

5月ごろまでニュージーランドに残って、クラブチームでお世話になりながら、サマーシーズンのチームを探していくつもりです。幸い、アルバイトもトレーニングもできる環境が揃っていますので。ABLでアメリカのマイナー・リーグの選手たちと一緒にプレーして、メジャー・リーグもより身近に、「行ってみたいな」と思えるようになりました。アメリカに限らず、世界中の国々で野球をしている選手がABLにはいて、そんな話をいろいろ聞くにつけ、「自分ももっと上を目指したいな」「こういうリーグで投げてみたいな」という気持ちが強くなったんです。このABLでの経験をさらに海外で生かすことが、自分がよりステップアップするための大きな糧になるのではないかと、今は考えています。そのためにも、まずはなんとかフォームをベストな形にして、コントロールの安定と、ストレートの球速アップを図っておきます。

Profile
こひがし・りょう●1997年生まれ、京都府出身。173cm73kg。左投左打。北桑田高から甲賀健康医療専門学校(現・ルネス紅葉スポーツ柔整専門学校)を経て、三菱自動車京都ダイヤフェニックス。22/23ABLでの成績は、【レギュラーシーズン】6試合(8イニング)登板、1勝0敗、防御率1.13、奪三振11【ポストシーズン】2試合(3イニング)登板、0勝1敗、防御率6.00、奪三振4

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