オーストラリアン・ベースボール・リーガーへの道
ABL2020/21シーズンはコロナ禍により、オーストラリア国内6チームによる変則リーグ戦。NPBからの選手派遣も見送られ、日本人選手は個人でブルスベン・バンディッツ入りした中村勝投手(元北海道日本ハムファイターズ)のみの参加となりました。まだ21/22シーズンの概要は発表されていませんが、中村投手のように個人でABLに参加を希望する選手は、どうすればその門戸を叩くことができるのでしょうか。中村投手を現地でサポートしたRK GLOBAL EDUCATION PTY LTD代表・貝沼竜輔さんのご協力で、ポイントをまとめてみました。
【加入の条件は?】
(ABL球団から見た)外国人選手が個人でABLへの参加を希望する場合、過去の例から見ても、ピッチャーかピッチャー以外かで条件が変わってきます。
投手の場合、NPB、独立リーグ、社会人または大学レベルで実績のある選手であれば、入団のチャンスはあるでしょう。野手の場合は少しレベルが上がる印象がありますので、NPB/社会人野球/独立リーグを経験した選手が理想というのが現状です。
実際、投手陣は社会人野球Honda各事業所からの派遣選手や、独立リーグに在籍する選手たちも過去、成績を残しています。NPB・横浜DeNAベイスターズの一軍でエース格の活躍をしていた今永昇太投手に至っては、18/19シーズンABLキャンベラでの“無双”ぶりが今も語り草です。
野手については、日本人選手を含む外国人枠にはアメリカのマイナーリーグから参加する選手も含まれており、比較的パワーのあるバッター(野手)で外国人枠が埋まるケースが多い印象です。
20/21シーズンにブリスベンで活躍した中村勝投手(元北海道日本ハム)はABLのシーズン前、地元のクラブチームでコンディションを整えました。ABL各チームはこうしたクラブチームが傘下にあり、MLBのマイナーチームと同様の役割を果たしています。そこで、まずそういったクラブチームに所属し、成績を残してABLと契約する、という方法もあります。クラブチームの試合は週2日(※レベルにより異なります)、行われます。英語の勉強やアルバイトと並行しての参加が可能です。
【入団交渉のしかたは?】
日本での試合動画と英文履歴書を送り、チームと交渉するのが一般的です。契約交渉、契約書などは英語・英文となります。また航空チケット、到着時の移動手段、ビザ、保険、シーズン前後も含めた滞在先、現地での交通手段など、選手自身での準備も必要になってきます。
今回お話を伺った貝沼さんのRKグローバル・エデュケーション社(本社ブリスベン)では、こうした入団までの準備、交渉及び入団後のサポートを行っています。
前述したクラブチーム入団の場合も同様です。
【必要なビザ、費用などは?】
18歳から30歳までの場合、12カ月有効の『ワーキングホリデービザ』で渡航する選手が多くいます。ABL各チームから『アスリートビザ』という特殊なビザが発給されることもありますが、こちらは期限が4カ月程度の短期滞在ビザとなります。
昨年の中村勝投手もワーキングホリデービザを取得し、ABLのシーズン開幕前から渡豪。語学学校へ通うなど滞在期間を有効に使いました。このワーキングホリデービザは自由度が広く、名前の通り渡豪後、アルバイトをすることも可能です。
≪主な費用≫
・ビザ申請料(ワーキングホリデービザ)485豪ドル
・航空券(往復)12万円程度~
・滞在費
・ABLに正式入団が決まった場合、チームが宿舎を用意し支払ってくれる場合もあります(外国人選手用の宿舎として3ベッドルームの家に3人で共同生活、など)
・チームによっては関係者の自宅にホームステイできるところもあります
・ABLとの契約前後の滞在先、クラブチーム所属時の滞在先は自身で確保する必要があります(中村勝投手は渡航当初はシェアハウス、開幕後はコンドミニアムタイプのホテルに滞在)
・クラブチームの場合はユニフォーム(上のみ購入。ズボンは白であればなんでもOK)、帽子代150豪ドル程度
・滞在中の車代
・ABLで、チームが外国人選手複数人で使えるよう車を提供してくれる場合もあります(ガソリン代は割り勘)
・クラブチームでは、すべて自費(中古車を買い、帰国時にまた売るなどの方法あり)
【いつから動く?】
各チームにはMLB傘下のマイナーリーグから多くの選手が派遣されています。アメリカからの選手で外国人枠がどんどん埋まっていきますので、この枠が埋まる前に動き始めるのがベストです。21/22年の開幕日はまだ発表されていませんが、例年どおり11月に開幕するとしたら、約6カ月前。特に個人で参加を希望する人ほど、(日本の)夏前から早めに動き始めた方がよさそうです。
ただ、ワーキングホリデービザを有効活用したい場合は、昨季の中村勝投手のような形をとるのも一つです。中村投手のサポートをし、最も身近で彼を見続けた貝沼さんは言います。
「中村投手はプロ野球で区切りをつけてから、実は一度19年12月、ブリスベンへ下見に来ているんです。その際もABLのチームから声が掛かりましたが、中村投手自身がきちんと準備をして20年3月に改めて渡豪し、語学習得、現地クラブチームでの調整、ABLとの契約という過程を選択しました。今回の彼の選択は、野球はもちろん社会人として、今後大きな財産となる経験に繋がったはずです。海外でトップアスリートとしてプレーをすることは、その経験をした選手しか味わえない満足感、達成感、孤独感などがあると思います。そのすべてが参加なさる選手にとって、野球人としてだけでなく社会人として、貴重な人生の1ページになると思います」。
NPBとはまた違った意味で厳しい、ABLへの道。しかし、ここに来ればきっと野球だけではない、たくさんの宝物が見つかるはずです。
※本記事の内容は、ABLの公式情報、公式見解ではありません。 ※本記事で示した条件、金額等は過去参加した選手の事例であり、今後チームや参加希望選手によって変わる可能性もあります。 ※オーストラリア国内でも依然、コロナ禍は続いており、21/22シーズンのABL開催状況および、日本在住の選手が今季ABLに参加できるかどうかは、まだ不透明な状況です。ご了承ください。
◆取材協力◆ RK GLOBAL EDUCATION PTY LTD (貝沼竜輔代表) E-mail: info@rkglobaleducation.com 業務内容: ・ Brisbane プロ野球チームでのインターンシップ手配及びサポート ・ 小、中、高校生及び大学生を対象とした海外研修/スタディーツアー の企画及び手配 ? ホームステイ手配、シェアハウス及び各種宿泊施設の紹介 ・オーストラリア教育機関/コースに関する最新情報提供 ・ 日本プロ野球選手の自主トレ手配及び現地サポート ほか