高橋康二投手(オークランド/福井Wラプターズ)インタビュー 「ABLでの経験すべてが自分の糧に」

KOJI TAKAHASHI ( AUCKLAND TUATARA ) – ABL RD 8 – SYDNEY BLUE SOX V AUCKLAND TUATARA – GAME 1. Action from the Australian Baseball League 2019 / 2020 Round 8, Game 1 clash between the Sydney Blue Sox v Auckland Tuatara at Blue Sox Stadium, Blacktown International Sportspark, 9 January 2020. This image is for editorial use only. Any further use or individual sale of this image must be cleared by application to the manager Sports Media Publishing ( SMP Images ). Photo: Joe Vella SMP Images / ABL Media.

190センチの長身からMAX151キロの速球を投げ下ろす。右ヒジのケガに泣いた福井工大時代。BCL・滋賀を経て2019年、福井ミラクルエレファンツ(現ワイルドラプターズ)に移籍した昨季はチームの守護神として37試合に登板、9セーブを挙げた。目標とするNPB入りに向け、一歩一歩近づいてきた高橋投手。そんな彼が思わぬ“武者修行”の誘いを受けたのは、そのオフだった。

 

●オークランドで教わったルーティンの大切さ

 

――ABLオークランド入りのきっかけから教えてください。

昨年(19年)福井にいたトレーナーのかたがABLとつながりがあり、「オークランドが“日本人のピッチャーが欲しい”と言っていて紹介したいんだけど、どう?」と声を掛けてくださったんです。いろいろ向こうの話を聞き、自分も海外に行ってみたかったこともあって、橋渡しをしていただきました。

――「海外に行ってみたい」気持ちの中には、昨年までの自分を何か変えたいとか、何かきっかけを掴みたいとか、そういう思いもあったのでしょうか。

僕は昨年まで一度も海外に行ったことがなかったので、いろいろな意味で絶対いい経験になると思いました。もちろん野球の面でも「何か掴めたらいいな」という気持ちはありましたが、初めはもう、すべての経験において期待するところが大きかったです。こんな絶好のチャンスはそうそう来ない。自分にとってはメリットしかないと思って、行くことにしました。

――実際オークランドに行って、野球をする環境など、高橋投手の目にはどう映りましたか?

想像より球場も新しく、メチャクチャ大きくて……。ジムも機械の揃ったいいところを使わせてもらって、これ以上の環境はないな、と思いました。練習時間自体はBCリーグと一緒くらいの長さなんですが、オークランドのほうがざっくりしているというか。基本的には個人個人で、自分が考えた練習をしている感じでしたね。だから僕も、まずはBCでいつも自分がやっていることをやって、そこに(オークランドでチームメイトになった)村中(恭兵=現琉球ブルーオーシャンズ)さんや北方(悠誠=現LAドジャース傘下)さんから聞いたトレーニングを徐々に付け加えていきました。

――村中投手、北方投手はNPB経験者ですが、彼らの練習には何か違いがありましたか?

練習でも自分のルーティンがしっかりしていることですね。まず1週間の中で何をするか、そこから1日1日ちゃんとやることが決まっていて、その内容を淡々とこなすんです。僕はそれまで、村中さんや北方さんのように細かくやったことがありませんでした。あとは、筋トレ一つとっても、「なんのためにそのトレーニングをするか」、きちんと意味を理解してやっていることですね。自分が今やっているトレーニングがピッチングのどこに影響してくるか、すべて分かったうえで練習に取り入れていました。それを僕もいろいろ教えてもらいました。

――高橋投手もいいルーティンができました?

オークランドにいる間にある程度できて、あとは日本に戻ってきてからですね。福井に帰ってきて僕、後輩にいろんなことを教えるようになったんです。人に教えながら、「そういえば、そういえば……」って次々、オークランドで教わったことを思い出して、どんどん自分のルーティンを改良していきました。

――オークランドで野球の知識を詰め込んで帰ってきたものが、しっかり自分の身になってきたということですね。

はい。自分のフォームには完成形があるんです。その完成形通りに投げられればスピードも出るし、コントロールもよくなる。球の回転数も増して、キレがよくなる。その、ベストのフォームを昨年、福井とオークランドで学ぶことができました。自分が「こうならなければいけない」という完成形が分かったので、あとはそのフォームでコンスタントに投げられるようにすればいい。そのための知識が増えました。まず自分に足りないところを加えていって、次は何かズレが生じるたびに修正する形で練習をしています。

――オークランドに行くまでは、完成形に対して何パーセントぐらいできていたんですか?

半分ぐらいですね。昨年は「球速150キロ超え」を目標にしていたんです。昨年福井の投手コーチだった福沢(卓宏=今季は監督)さんに、投球フォームを含めた野球というものをみっちり教わって、自分の目指すフォームの完成形が分かりました。僕はそれまで、野球の正解を知らなかった。野球について、深く考えたことがなかったんです。そこで去年、福沢さんから毎日のように、いろんな形を教わりました。でも仮に30個教わったとして、初めは福沢さんが何を言っているのかさっぱり分かりませんでした。マネしても全くできなかった。それが自分で時間をかけて考えて、考えて、最初に一つ何かできるようになったら、ビックリするほどすべてがつながっていったんです。どうしたら福沢さんの言うフォームになるか分かったし、気が付いたらフォームも変わって、球速が上がっていました。このトシになってやっと自分も成長の仕方を知ったという感じで楽しくて、どんどんハマっていって、変われたと思います。

――それでも、まだ完成形には遠かったんですね。

スピードの先が足りなかったというか……。自分の投球フォームを前半と後半に分けるとしたら、前半は完璧に近かったのに、後半はほとんど力で押し切っていました。

――オークランドから帰ってきたときは、どのくらいに?

スピードのことを言うと、「160キロ」が完成形だと考えているんです。福井では、150キロを投げるために力んでしまいました。でもオークランドに行ってから、力を抜いて体を柔らかく使うとか、ムチのように使うことを覚えたので、15パーセントぐらいはプラスできたかなと思います。

 

●登録外でもモチベーションを維持

 

――そのオークランドでは開幕後、2試合に投げただけでトップチームの登録メンバーを外されてしまいました。あのときはミンツ監督からどんな話があったんですか?

メルボルン戦(11月30日)で2回2/3を抑えて、その次のキャンベラ戦(12月7日)は7回の一死一塁から2ラン、シングルヒットで交代になりました。あのときは、誰か別のピッチャーを試したいから一度お前を外す、という話でした。

――それから約1カ月、1月初めに再登録されるまではどんなふうに過ごしていたのですか?

遠征のとき以外はチームと一緒に練習して週に1回、地元のクラブチームの試合で投げていました。クラブチームはアマチュアで、普通に投げればバットに当たらないくらいのレベルでした。

――その間は、どうやってモチベーションを保っていたんですか?

登録を外されていても十分な練習ができたので、そこは感謝しながらやっていました。オフシーズン日本にいると、僕らBCの選手はアルバイトしながら練習するんです。でもバイトをしていると、どうしても野球へのモチベーションが下がってしまう。それで練習も少しおろそかになりがちなんですが、その期間を海外で練習に集中できたので、モチベーションは全く問題なかったです。実際、チームが遠征に出ている間も一人で公園やジムに行って、練習して。一人でも、それなりに楽しくやっていたんですよ。

――ABLに行った目的が、野球だけじゃなかったのもよかったのかもしれませんね。再登録されたとき、自分の中で何か違いはありましたか?

約1カ月、それなりに楽しかったとはいっても、やはり悔しい部分もあったので、「やっと投げられる」という気持ちでした。外される直前のメルボルン戦も、バッター2人に4球くらいしか放っていなかったですしね。チームメイトも「なんでお前が(登録を)外れてるの?」という感じで、ずっと言ってくれていたんです。だから悔しさとか「やっと……」という思いはあったけど、逆に戻ったとき力んだということも全くありませんでした。

――ちょうどチームも首位を走っていて、雰囲気もよかった時期ですね。そのチームで、高橋投手はどんな役割を果たそうと思いましたか?

あのころはチームも波に乗った感じで、楽しかったです。ただチーム状況としてはピッチャーが少なかったので、僕はロングリリーフだな、と。リリーフは毎日投げなければいけないし、なおかつ長いイニングを投げるのは自分自身あまり慣れていませんでしたが、どうにかやれました。

 

●オークランドのファンに救われた

 

Auckland Tuatara (AUCKLAND TUATARA) – Photo SMPIMAGES. Action from the Australian Baseball League 2019/20 Round 10 clash between the Brisbane Bandits v Auckland Tuatara played at Auckland New Zealand

――レギュラーシーズンで北東地区優勝が決まったとき、チーム全員で撮った写真では最前列に陣取っていましたね(笑)。

僕、写真に残るものは全部前にいたいタイプなので……(笑)。

――いい写真でした(笑)。そしてメルボルンとのセミファイナル2戦目。2対0とリードした5回途中から登板しましたが、あのときは緊張しましたか?

初めは「6回頭から行く」から慌てず用意しろ、というふうに言われたので作っていたら、5回途中(一死一、三塁)で「行け」と言われました。肩はできていたんですが、マウンドに行ったら、いきなりけん制のサインが出たらしいんです。僕はそれを見逃して、そのままホームに投げ、2ストライクまで追い込んだんですよ。そうしたらショートがマウンドに来て、「ピックオフ(けん制)のサインが出てるぞ」と言うんです。僕は一瞬「ピックオフ」プレーでピッチドアウトしろと言われているのかと思って、「何言っとんのや」ってテンパって……。通訳さんが出てきて「けん制のサインを見逃してるぞ」と言われたとたん、もうアタマが真っ白になってしまいました。

――そこからフォアボールで満塁に……。

その次のバッターに、カウント1―1からスライダーを足にぶつけてしまい、押し出し(2対1)。それでもう完全に呑み込まれてしまいました。

――ヒット2本と犠牲フライ、ワイルドピッチで一気に6対2と試合をひっくり返されてしまいました。

あのときは正直、1アウトも取れる気がしませんでした。何かしなくちゃと思っているうち、ふと前の試合で監督に「足を上げてから一度止めるのをやめろ」「タイミングを変えてみろ」と言われていたのを思い出して、足を止めずに投げてみたら、ますます崩れていって……。さらにテンパって、もうボロボロでした。自分は今何をしているのか、という感じで、ホームのファンが大勢いる中、完全に孤独になってしまいました。

――交代後は、どうやって気持ちを整理したんですか?

まずベンチに帰って椅子に座って、もう視線をどこにやったらいいかもわからなくて、固まっていました。試合に負けて、(0勝2敗で)セミファイナル敗退が決まって、シーズン最後の本拠地ゲームになったので、スタンドのファンの間を全員が歩いて挨拶することになっていたんです。でも僕はずっと茫然と椅子に座っていて……。そうしたら監督に「行け」と言われたんですが、メチャクチャ気まずかったです。完全に僕のせいで負けたので。でもファンの皆さんが「大丈夫」「よくやった」と口々に言ってハグしてくれて、僕はもうそこでボロ泣きしました。ファンの方々のおかげで救われたというか、一気にラクになれました。

――他のピッチャーたちには何か声を掛けられた?

逆におちょくられました(笑)。村中さんには、「こんなことでいちいち病んでたら、やってられないよ」とか(笑)。でも本当、いい勉強になりました。あの試合、体の調子はメッチャよかったんです。それなのに精神面から崩れていくなんて、中学校以来なんじゃないかなというくらい。「あ、呑まれるってこういうことなんだな」と思いました。「先発(曾仁和)が出したランナーを1人も返したらいけない」と思ってマウンドに上がったので、1点取られた時点で崩れてしまったんです。そのうち球場全体が、チームメイトまで自分のことを敵だと思っているような、被害妄想にも駆られて……。

 

●NPB入りのために何をするか

 

――高橋投手が今回、ABLで得たものは?

 何もかもが初めてのことで、すべてが新鮮でしたし、野球も生活も、人間自体も自由な雰囲気で……。僕もはっきり「何」とは言えないんですが、あの経験すべてがプラスになったというか、確実に何かを得たと思っているんです。最初ニュージーランドに向かうとき、日本から台湾、オーストラリアを経由して一人で飛行機に乗っていったんですよ。僕、本当に海外自体初めてだったので、乗り換え方もよく分からないし、台湾の空港で待ち時間6時間あっても初めはご飯一つ注文できず、一人で固まって座り込んで、現実逃避していたようなところから、今回の生活がスタートしてるんです。それで最後までああいう経験ができたので、度胸がついたというか、もう言葉の通じる日本なら何も怖いものがないというか(笑)。

――帰国後から今までは、どう過ごしていましたか?

2週間ほど実家に帰りましたけど、完全なオフにはせず、体は動かし続けていました。そのあと福井に来て、チームの練習に合流しました。特に疲れもなく、いい感じで調整できていたと思います。ABLのバッターは体も大きいし、構えているだけで「投げる球ないわ」と思うようなバッターもたまにいたんですが、日本に帰ってきてからのオープン戦では、投げる前から勝っているような気分で相手に臨めました。

――いい調子で来たところに、新型コロナウイルスでの中断が挟まったのは残念でしたね。

今は僕にとって、チャンスだと捉えるようにしています。僕は今、自分の投球フォームや日々の練習で感じたことを動画にしてSNSで発信しているんですが、それを『トクサンTV』で取り上げていただいたり、NPBの選手に「いいね!」をいただいたりして、どんどんフォロワーが増えていっているんです。これは僕の一つの自己アピールになったと思います。この中断期間がなければ、こうしてSNSで発信しようとはしなかったでしょうし、高校、大学、社会人の大会が中止になって、もしかすると最初に開幕するのが独立リーグになるかもしれない。そうしたら、例年より多くのスカウトが独立リーグを見に来てくださるかもしれません。だから今は、この中断時期もプラスに考えて練習しています。

――最後に、今季の目標を聞かせてください。

とにかくBCリーグで結果を残して、NPB入りすることです。そのために、自分がどうするか。このトシ(25歳)で「ストレートで売っていこう」と思ったら、やはり160キロくらい出さないとインパクトがないと思います。だから、160キロを目指します。もちろんNPBに入ったら、速球とスライダーだけでは抑えられないと思うので、自分の武器は再考しなければならないでしょう。でも今はまず、NPBに入るためにどうすればいいかを重点的に考えながら、日々前進していきたいと思います。

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