清水直行(元千葉ロッテほか)さんに聞く ニュージーランド野球の変化とこれから

昨年、国内初のプロ野球チーム、オークランド・トゥアタラが誕生し、目覚ましく発展を遂げているニュージーランド。この国の野球にかかわって、6年。誰よりもニュージーランド野球を深く知る清水さんに、その変化やこれからの期待を聞いた。

――オークランドでの5回目の野球教室も盛況でしたね。
「はい、このためにずっと尽力してくださっている『ニュージーランド野球友の会』の皆さんに、まず感謝したいですね」

――講師として、毎年NPBのOBたちが来てくれるのも魅力です。
「宮本慎也さんは日本の野球をこちらに伝えたいと言って、3年連続で来てくれました。実際こういう場に参加すると、未来ある子どもたちに教えるだけでなく、現役選手とキャッチボールをしたり、昔話に花を咲かせたり、OBたちにとってもいくつもの楽しみがあるんですよ」

――日本の元プロ野球選手が講師を務めることを、オークランドの子どもたちはどんなふうに受け止めているのでしょうか。
「親御さんの仕事の関係で日本を離れている子どもの中には、こちらの学校に野球部がなくて野球文化に飢えている子もいます。また日本人にとって、野球は今、誇れるスポーツ文化です。日本人の子どもが“ニュージーランドはラグビーが強い国”と分かっているのと同じように、ニュージーランド人の子どもたちも、“日本は野球が強い国”と知っているんですよ」

――講師の方々にとっても、よい経験になりそうですね。
「まず野球の普及活動という社会貢献ができます。そして、ここで見たもの、経験したこと、すべてお金以上の価値があると思いますよ。彼らの今後の人生にも、例えば講演活動などするときには特にこの経験が実になるでしょう。もちろん、こうした経験を生かすも殺すも自分次第ですが。今回参加してくれた吉村(裕基)選手、成瀬(善久)選手の2人も、年齢を重ねて物事の見方がずいぶん変わってきていると思うんです。立場、環境、いろいろなものが、自分の視野を広げることになる。この機会を、ぜひ今後の野球人生に生かしてほしいと思います」

――清水さんがニュージーランドの野球にかかわって5年。その間の変化について、どう感じていらっしゃいますか?
「いまや当たり前にウオームアップする場所があり、ロッカールームもスタンドも完備された専用球場ができた。わずか4、5年でこんな状態になるとは正直、思いませんでした。少しずつですが、野球に情熱を持つ人が増えてきたと実感しています。われわれ日本人も、いろいろな形で協力できたのはよかったですね。あとは今後も、こうした野球普及活動をコツコツ続けることが必要だと思います。今はまだ、何もなかったところ=0だったところが、1になった状態。1、2年目は熱量があるのが当たり前で、来年、再来年がいよいよ勝負になってくるのではないでしょうか」

――野球を全く知らない人たちに、まず野球観戦から普及させるのはなかなか大変ですね。
「野球はルールが難しいですからね。今年、日本で行われたラグビーW杯がいい見本になると思います。テレビ画面の端に用語やルールの説明が何度も出たおかげで、みんながルールを理解できるようになりました。ABLもスタートした当初は、場内アナウンスで“今のプレーはこういうことです”と、ルールの説明があったと聞いています。あるいは、なんらかの形でやさしいルール説明を配布するのもいいですよね」

――ところで清水さんご自身は、新生球団『琉球ブルーオーシャンズ』監督就任という、新たなチャレンジをなさるんですね。
「“千葉ロッテのコーチでいれば安泰なのに”と言う方もいらっしゃいましたが、コーチと言う仕事はみなさん思うほど安泰ではないんですよね。新しいことに挑戦するのは、自分次第。僕だって、別に“誰もやっていない”ことをやっているわけではないんですよ。すでに多くの方が、野球用具を送るといった野球普及活動はしていますよね。物の代わりに僕がカバン一つ持って、そこに行くだけだから、決して新しいことをしているわけではありません」

――いずれ琉球とニュージーランド野球の間にも、また何か交流ができる可能性もありそうです。
「こういう活動って、なかったものができていく過程を共に味わえるところに対価があると思うんです。自分がかかわって、コツコツやってきたことが積み重なって、こうなったという。それは嬉しいですし、そこが大切なんですよね。琉球だって10年後、20年後、“まさかNPBで優勝できる日が来るなんて……”と言っているかもしれない。沖縄に10年後、ものすごいスタジアムができて、“すごいなあ、感慨深いなあ”と言っているかもしれない。少しずつだけど、やりたいことは叶えていっているんですよ。ニュージーランドにいたとき、今シドニーにいるボス・モアナロアをアルビレックス新潟に送ったとか、千葉ロッテの選手をニュージーランドに連れてきたとか。いつかニュージーランドの選手を沖縄に連れてきて、一緒に日本一を果たしたいですね」

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