やらずに後悔したくない/群馬ダイヤモンドペガサス・田代大輝(投手)

ルートインBCリーグ1年目となった2018年は、12試合に登板し3勝、防御率2.25。オフは千葉ロッテマリーンズの選手たちと入れ違いに、オークランド・トゥアタラでプレーした。初の海外経験も、冷静沈着なピッチングで通算防御率は3点台。異文化で得た見聞を糧に、今季、日本での飛躍に期待がかかる。

Taki Tashiro (Auckland Tuatara) – Photo: SMPIMAGES.COM / ABL Media – Action from the Australian Baseball League (ABL) Round 8, between the brisbane Bandits v Auckland. Played at One Hub Stadium Powered by Optus, Brisbane .

日本の野球しか知らなかった

 

――ABLオークランドに参加した背景から、教えてください。
「昨年のシーズン途中から練習生として群馬ダイヤモンドペガサスに加わり、選手に昇格してシーズンを終えました。そのころ、チームメイトから“コロンビアとオーストラリアのウインターリーグに参加する選手を探している”という話を聞いたんです。詳しく聞いて、“なんか面白そうだな”と思い、最初はベネズエラ人のチームメイトと一緒に、コロンビアに行くつもりでした。ところがその話が途中で立ち消えになって……」

――そこで、ABLが再浮上?
「そのうちABLのシーズンが始まってしまい、“もう(ウインターリーグは)ないな”と思って、車の免許を取りに行っちゃったんです。それも合宿免許で(笑)。その最中に話が急展開して、“今すぐ来られる左ピッチャー、いないか”ということになりまして。それで、自分が手を挙げました」

――合宿終了後、すぐオークランドに合流したのですか?
「はい、(群馬)球団に許可を得てから、合宿が終わって1週間もしないうちに向こうへ行きました」

――そんなに急では、予備知識を得る間もあまりなかったのでは?
「日本球界からどこに誰が行っているか、日本に来ていた外国人選手がどこにいるか程度は、それなりに調べていきました。ただマエストリ(元オリックス)は彼がNPBにいたころよく見ていたんですが、いろんな国に行っているので今ABLにいることを知らなくて……。シドニーにいたので、ビックリしましたね。日本語も上手で、とても優しかったです」

――SNSで一緒に写真を撮っていましたよね(笑)。田代投手はまずどんなことをABLでの目標として持っていったのですか?
「1カ月という短い期間ですし、数字や成績を追い求めるより、オーストラリアの野球の良さをなるべく吸収しようと、そちらにアンテナを向けていました。自分は高校も大学も弱い学校で、日本の野球しか知らなかったので、オーストラリアへ行くときも“もしかして、こういうところでやるのもアリなのかな”と、選択肢の一つとして見てみたいと思いました」

 

“新しい自分”の発見も

 

――ABLの野球は、どんな印象を受けましたか?
「野球や戦い方は、日本とそこまで変わらなかったです。というのも、自分の勝手なイメージで、海外はもっと大味な戦い方をするのかなと思っていたんですよ。そうしたらバントもするし、継投も考えているし、意外と細かい作戦で動いてくるな、と」

――バッターだけで見てみると、どうでしたか? 日本のバッターと何か違いはありましたか?
「自分が戦った限りでは、あまり変わらないと思いました。体格の違いがあったり、強く振ってきたりといったことはありますが、極端な違いはなかったです。あ、でもストレートにはかなり強かったですね。僕のストレートだと、打たれます。もっとスピードの速い人でも打たれていましたね」

――変化球はどうでしたか?
「もろいですね。そこは若干、大味なところがあったかなと思います。そのへんは、自分がイメージしていった通りでした」

――とすると、田代投手がこういう攻め方をすれば打ち取れる、というパターンはどんな形に?
「最初は結構ストレート主体で、日本にいるときと同じような配球で投げていたんです。でもキャンベラ戦で2試合連続(12月27日、29日)、ストレートをホームランされまして。これじゃあ通用しないなと思って、次の週にキャッチャーが代わったとき、“キャッチャーから自分はどう見えているのかな”ということが知りたくて、サインに全くクビを振らずに投げたんです。そうしたら、そのキャッチャーは半分くらいスライダーを要求してきました」

――日本では、スライダーをどのくらい投げていたんですか?
「ストレートとチェンジアップが8割くらい。スライダーはコントロールにそこまで自信がなくて、投げていなかったんです。でもオーストラリアだし、結果はそこまで重視していなかったので、ボール球になってもいいやと思って投げたら、あまりストライクは入っていなかったのに、意外と振ってくる。それで結果的にアウトを取れるので、“これは結構いけるな”と思いました。体が大きくて手が長い分、届くから手を出してくるのかもしれないんですが、当たってもボール球はあまりヒットにならないので。スライダー自体は日本で投げるのと変わらないけれども、向こうのバッターには意外と有効なんだなとわかりました」

――新しい自分の発見ですね。スライダーは日本でも武器にしていけると思いますか?
「向こうで通用したなら、日本人でも同じようなタイプのバッターに対して投げたらどういう反応をするか、試してみようという気持ちになりましたね」

 

ミスに寛容なオーストラリア野球

 

――ABLで一番の収穫はそこでしょうか。
「技術的……配球の面でいえば、そこですね。でも一番は間違いなく、“考え方”です」

――考え方というと?
「試合の中での考え方ですね。日本はミスをすると指導者に叱られるようなイメージがあって、萎縮してしまう選手もいるじゃないですか。でも向こうは、ミスをミスっぽくさせないというか……。ミスが起きたら、その状況に合わせて、じゃあ次はこうしましょう、ああしましょう、と次善の策をみんなで考える。チーム全体にそれが伝わるんです。だから、例えば自分がフォアボールを出しても、“ランナー一塁だから、次はこうすればいい”とすぐ頭を切り替えて、逆に冷静でいられるんです。海外は“ミスに寛容だ”と聞いてはいましたが、それを身を持って体感できたのは大きいですね」

――起きてしまったことは仕方ないから、次へ次へ、最善の策を考えていくということですね。
「また、そういう環境にいると、無意識のうちに考え方も変わってくるんですよ。頭の整理ができるようになるんですね。それは、とても大きな収穫だったと思います」

 

ABLに行ってよかった

 

――今回ABLに行って、NPBの選手やアメリカのマイナーリーグの選手たちを見て、彼らと田代投手の間には、技術的に何か差があると思いましたか?
「NPBの選手たちには正直、違うところがたくさん見えました。体を動かす感覚がずば抜けて高い人の集団、というイメージですね。練習の中で、自分の体と会話しながらフォームを修正していける。ABLと独立だったら、結構いい勝負をするんじゃないかと思います。特に群馬は去年、とても強かったので。たぶん群馬だったら、ABLのチームにも勝てると思いますよ。ただABLの選手を個人個人で見たときに、“こいつはヤバイ”という選手がいるんですよ。調べてみると、やはりマイナー契約している選手なんです。自分がいたオークランドだと、ブランドン・マークランドという抑えのピッチャー。球がまず速くて、ABLのシーズンが終わったら、ロイヤルズのキャンプに呼ばれて行きました。あとはEJことエリック・ジェンキンス。彼も明らかに違いましたね。それからDeNAのキャンプに来たキャンベラのスティーヴン・ケント。球が速いし、威力があるなと思って調べてみたら、オーストラリア代表でした」

――そこで考え方を学べたのは、よかったですね。
「そうですね。自分はこれまで、上をあまり見てこなかった。常に保険をかけていたんです。独立リーグに入る前、一度大学に入学したんですよ。最初、勉強もしておこうと思って大学に入ったんですが、入って半月くらいで“自分はこうなりたいんじゃない”と思って、野球部のリーグ戦が始まる1週間前に退学したんです。本当は野球をやりたいのに、勝手に保険をかけて、中途半端になって、全く勉強もしなくなって。それだったら家を出て野球に集中し、それでもダメだったら野球をやめようと思って、群馬のトライアウトに応募しました。やらないで、あとから“やっておけばよかった”と思うのはもったいない。だから今回も、ABLに行くことにしました。行ってよかったと思います。独立と比べれば、上の舞台であることは間違いない。NPBがウインターリーグとして選手を派遣しているわけですから、そういうところでいつも通りに投げられたということは、結構自信になるというか、独立でピンチになっても、“ああいうところでやってきたんだから、大丈夫”と思えるんじゃないかと」

――向こうに行って野球をやると決めた時点で、皆さん、もう度胸が着いているんじゃないかと思いますよ。マウンドに行ったら、逆に「いつもの場所」で落ち着くんじゃないですか(笑)。
「自分も、メチャ緊張すると思ったんですよ(笑)。でも行ってみたら、“あ、いつも通りだ”って。違うのは周りの人と風景だけで。マウンドに上がった瞬間、“俺、オーストラリアに来たんだわ”という感じで、緊張よりも“ここに来られて嬉しい”という気持ちのほうが強かったんです」

 

“アイスマン”と呼ばれて

 

――この先、ABLで学んだことを踏まえて、どんなプレーをしていきたいですか?
「オーストラリアで投げていたときの心理状態のままで日本でも投げることができたら、かなりいい状態でプレーできるとは思っています」

――先ほど話してくれた考え方に基づいた心理状態?
「本当に冷静だったんですよ。落ち着きすぎて、チームメイトから『アイスマン』ってあだ名を付けられたくらい(笑)。実は自分、もともとすごくソワソワしてしまうタイプで、プレッシャーがかかるとすぐ“ヤバイヤバイ”っていう感じだったんです。特に環境が変わったとき、そうなることが多かったので、オーストラリアでもどうなるかなと思っていました。でも準備の面で、日本と変わらずやることさえやっていれば、たとえ環境が変わってもいつも通りでいられるんだなということがわかりました」

――やはり、何事も準備が大切なんですね。
「一番は、そこですね。やることをやっていれば、平常心でいられることがわかったので、準備を大事に大事に、やっていこうかなと思います」

――今、最終的な目標はNPBですか?
「そうです。その目標がなかったら、たぶん野球をやっていなかったと思います。中学、高校と、プロ入りを真剣に考えることが、野球をやる原動力になってきました」

――今季はずっと先発で行く予定ですか?
「去年も最初は中継ぎでしたが、自分はもともと先発をやりたいと言っていて。今季もたぶん、先発で行かせてもらうと思います。チームの連覇と、自分自身はNPB入りを目指して投げていきます」

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