戻れる場所/今永昇太

Shota Imanaga – Canberra Cavalry – Photo: SMPIMAGES.COM / ABL MEDIA – Action from the Australian Baseball League (ABL) Round 3 clash between the Auckland Tuatara v Canberra Cavalry played in Auckland.

「今日のキャバルリー先発は、NPB・横浜DeNAベイスターズからやってきたトッププレーヤー、ショータ・イマナガ!」と紹介されるたび、味方ファンは沸き、相手ファンはブーイングとため息の入り混じったどよめきに包まれる。今やキャバルリーのローテーションに欠かせない存在となった今永。この活躍は、彼にとってどんな意味を持つのだろうか。

 

ABL第2ラウンドからキャンベラ・キャバルリーに合流して以降、第5ラウンドが終了した12月17日現在、4試合に登板。防御率0.78、2勝0敗の好投が続いている。奪三振率は驚異の14.5で、ABLの「“SHO”W TIME!」といえば、SHOTA IMANAGAのマウンドだ。

 

2018年、横浜DeNAベイスターズでNPB3年目のシーズンを終えた。ドラフト1位で入団し、ルーキーイヤーはもちろん2年目も、“ジンクス”などどこ吹く風、の活躍を見せた。だが3年目は開幕前、左肩の違和感を訴えて出遅れると、シーズン中も安定感を欠き、「不甲斐ないシーズン(今永)」に。

 

そんな中、チームがABL派遣希望選手を募ったとき、真っ先に手を挙げた。確かに18年の成績が成績だったことも、理由の一つではある。だが、それは実のところ、さほど大きな理由ではなかった。プロに入ったころからウインターリーグに興味を惹かれており、こうした機会を求めていたからだ。

 

「大きなところでいえば、プロ野球選手とはいえ、野球だけをやっていればいいわけではありません。むしろ、現役を終えたあとの人生のほうが長いわけですから、そのとき、人間としてゼロにはなりたくない。野球をしながら野球以外の苦労もしておいたほうがいいと、かねてから思っていました」

 

17年の台湾・アジアプロ野球チャンピオンシップ出場は、NPB選抜の一員としての参加だった。ふだんのチーム遠征とさほど変わらない、周囲のケアを受けながらの海外派遣。自分の求めている形とは、少し違った。「若いうちの苦労は買ってでもしろ」という故事通り、若いうちに海外“武者修行”体験をしておきたかった。そこへ巡ってきた、チームのABL派遣事業開始というタイミング。

 

「すべてのタイミングがうまく重なりましたね。思えばドラフトもタイミング、2年連続CS進出、そして日本シリーズまで経験できたのも、タイミング。チームの先輩方が、苦しい時期を乗り越えてきてくださったおかげで、僕はプロ1年目からいい時間をいただいてきました」

 

比較的、順風満帆にみえる、これまでの野球人生。今永自身はそこまで順調とも思っておらず、いくつもの”タイミング“に出合いながら、その都度自分で選んだ道を――自分を信じ、歩んできたつもりでいる。今回のABL派遣もタイミングそのものは絶妙だったが、派遣の時期は自分で考え、他の3選手とは異なった日程を取った。

 

「今は(日本の)シーズンが終わり、自分のできたこと、できなかったことを見返す時期。秋季キャンプと奄美キャンプでしっかりやるべきことをやってから、オーストラリアへ行こうと思い、遅い合流になりました」

 

秋季キャンプでは毎日2時間、木塚敦志コーチがシャドーピッチング、ネットスロー、ショートピッチングにつき合ってくれた。奄美キャンプでは、大家友和コーチがピッチングの際の体のバランスを見て、細やかなアドバイスを送ってくれた。

 

「自分にとって“不変のもの”を作りたいんです。自分のピッチングの“幹”ですね。そして、それを『戻れる場所』にする。絶え間なく変化しなければならないプロ野球界で、進化できる人は必ず『戻れる場所』がある。僕はその場しのぎで何かできても、その『戻れる場所』がなかった。それを今、この環境――実戦を含めたトレーニングの中でできることには、非常に価値があると思うんです」

 

秋季キャンプと奄美キャンプでやってきたことに対し、信念をもって、ABLでも継続、実践していく。それが、この“武者修行”での第一の目的だ。

 

もちろん、チームの一員として戦うからには、しっかりその歯車として機能したい。キャバルリーを勝たせたい。しかし1試合、1試合の目標は勝つことでも、ここに来た目的は別にあることを忘れずに。スイスイ三振が取れても、どんな数字をはじき出すことができても、大きな賞賛をもって結果を讃えられようとも、それを直接、来季の自信につなげるわけにはいかないのだ。

 

このあと、同じ横浜DeNAから派遣されている他の3選手より早く、12月いっぱいの第7ラウンドを最後に帰国する。それも自分でコンディション作りを考え、まだ肌寒い2月のキャンプ入り前に、一度寒い日本で調整しておきたかったためという。

 

自身を「頑固者」と表現する今永。頑固さは時に変化を阻むが、一方で大きな武器となる。「秋からやってきたことには納得している」という確固たる自信を武器に、今永が本来「“SHO”W TIME!」を見せるべき場所――日本のマウンドへ来季、戻る。

あわせて読みたい