DeNAの戦略的パートナーシップとは【最終回】
選手の自主性が、成長につながる――横浜DeNAベイスターズとABLキャンベラ・キャバルリーの新しい試み
2018年7月、横浜DeNAベイスターズとABLキャンベラ・キャバルリーの『戦略的パートナーシップ』締結が発表された。業務提携の第一弾として2018/19シーズン、キャバルリーに今永昇太、三上朋也、国吉佑樹、青柳昴樹の4選手を派遣する。この『戦略的パートナーシップ』とは、どのようなものか。DeNAベイスターズ側の“戦略”を、この事業に携わるチーム統括本部チーム戦略部・人材開発コーディネーターの住田ワタリさんに聞く、最終回。(取材は今永、三上両選手合流前)
Photo: SMP Images
――選手たちは、キャンベラでどんな生活を?
「選手だけで、キッチン付きのアパートメント・ホテルに宿泊し、自炊生活を送っています。移動はレンタカーを借りて、今は国吉が運転していますね。右ハンドルの左車線というところは日本と同じなので、問題ないと言っていました。私が視察に行ったとき、スーパーの場所など一応調べて教えてはおいたのですが、自分たちで地図アプリを使いながら、いろいろ見つけているようですよ」
――たくましいですね。試合中も通訳の方はつかないのですか?
「こちらからは、行きません。我々が連れて行って通訳ベッタリになるのではなく、あくまでも英語を話す日本人の球団スタッフがいない中で、何か緊急なことが起きたとき、監督と真剣な話をしたいときなど、どうしてもサポートが必要なときに備えて、現地の方を一人、お願いしました。その方も、ホームの練習や試合のみ、来られるときに来てくださる形です。でも日ごろの生活に関しては、なんの心配もしていないですよ。青柳や国吉は、積極的に英語で話そうと奮闘していましたしね」
――今後、両チーム間のパートナーシップをどう発展させていきたいとお考えですか?
「まずは選手派遣について、ABLのシーズンが終わったところで振り返り、精査します。次のステップとして、やはりこういうパートナーシップを結んだ以上、お互いが野球以外の分野においても協力し合える場を持ちたい。具体的にはこれからですが、キャンベラは44万人という小さなマーケットではありますが、首都という利点があります。キャンベラにある日本の企業や官庁、大使館に対して日本語で情報を発信したり、イベントを行なったりできるスタッフが欲しいという話は出ています。まずは選手がオーストラリアで実りあるオフを過ごすことが第一ですが、そこから継続的にキャバルリーとよいパートナーシップを築けるよう、考えていきたいと思います」
――住田さんが実際ご覧になって、ABLの魅力はどういったところに感じましたか?
「ラテンアメリカのウインターリーグとは、大きく違いますよね。正直、選手のレベルも、そこまで高くないと思います。でもその分、アマチュア選手もいれば海外から助っ人として来ている選手、ウチのように提携して派遣されてくる選手もいる。いろいろなステータスを持った選手が集まるというのは、非常に面白いですね。練習日の集合時間も「一応午後3時から」って感じで、“一応”なんですよ(笑)。なぜかと言うと、オーストラリアの選手のほとんどは、野球のほかに仕事を持っているんです。だから、仕事があって練習に遅れて来るとか、来られないこともザラなんですね。その分外国人は、仕事として来ていますから、きっちり3時に集まってくる。オーストラリアのリーグなのに、最初はオーストラリア人ゼロで外国人だけで練習を始めた日もありました。ダイバーシティですよね。そこが一番ですね」
――いろいろな国の選手が集まるだけでも面白いのに、さらに置かれた環境まで違う選手同士がチームメイトになる面白さは、確かにありますね。
「今回キャンベラに来ているアメリカ人選手も、独立リーグの苦労人が多いんですよ。彼らと話す機会があって、一人が言うんです。『僕はすごくラッキーだった』と。『僕はまだマイナーリーグにも参加したことはないけれど、独立リーグで首位打者を獲って、初めて“オーストラリアに行かないか”と声を掛けられた。だから、すごく喜んで手を挙げた』と。彼らにしたら、来季以降の仕事を見つける大事なアピールポイントの場なんですね。かと思えば、サンディエゴ・パドレスから来ているベネズエラ人の2人は、まだ18歳と20歳なんですが、球団が非常に期待していて、お金をかけて育てようとしている。彼らは『今年はケガで、200打席くらいしか打席に立てなかった。だから、クリスマスまでの20試合弱で、だいたい100打席近く立てればいいな』とか、18歳の子がしっかり、自分がなんのために来ているのか話せるんですよ。そういうダイバーシティの中に身を置けることが、ABLの魅力かなと思いますし、できることならウチの選手たちも、自分のプランを持っている海外の選手たちとしっかり話をして、何か感じてきてほしいですね」