【横浜DeNAベイスターズ 住田ワタリさんインタビュー】キャンベラで野球の裾野が、様々な人とのつながりが広がる
2018年から、キャンベラ・キャバルリーとの間で『戦略的パートナーシップ』を結ぶ横浜DeNAベイスターズ。両チームによる業務提携の大きな柱は、ベイスターズの選手が日本のオフ期間にあたるABLのシーズン中、キャンベラでプレーすることだ。NPBの他球団もABL派遣を行なっているが、「選手が主体性を持って、ABL派遣を希望する」形をとっているのは、ベイスターズだけ。今季の派遣選手について、また4度目の派遣を迎えての様々な変化について、チームディベロップメント・コーディネーターの住田ワタリさんにお話を伺った。
理由は違えど、自ら手を挙げて参加した選手たち
――今季、ABLに参加している徳山壮磨投手、東妻純平捕手はキャンベラ派遣の志望動機として、それぞれどんなお話をされていましたか?
徳山投手は「サポートのない場所においてもベストなパフォーマンスができるよう、自分一人で考える機会を作りたい」というのが、当初の志望動機でした。そんな話をした後、彼自身の起用法が先発からリリーフに代わり、やがて新しい持ち場での適正も見えてきました。そこで徳山投手のなかにも、「自分の求められているポジションで、どのように力を発揮できるか試してみたい」という部分が、新たにABLでの目標として加わりました。
私が10月にキャンベラへ行って、実際キース・ウォード監督とお会いしたとき、監督もそれをくみ取った選手起用や、彼が自身の成長のために考えることを最大限サポートしてくれると話してくれました。そのうえで、キャバルリーとして徳山投手に何を担ってほしいか、チームの勝利のピースとして期待しているとのことでしたので、そこは徳山投手にも伝えてあります。
――東妻捕手についてはいかがですか?
キャバルリーには、東妻選手と同じ捕手のポジションに、ロビー・パーキンスというオーストラリア代表の選手がいます。おそらく捕手としての出場機会は少ないだろうことは承知のうえで、「空いているポジションなら、どこでも試合に出たい」と今回の参加を希望しました。ベイスターズとしても、彼は今打撃面での成長が期待されていますので、それを生かすために内外野に挑戦するのは望ましい。キャバルリー側からも、そのための環境は用意できるという回答を得て、参加が決まりました。
――昨年は、初めてスタッフ(小杉陽太二軍投手コーチ、戸谷優太ファームMC)の派遣も行われました。お2人からはどのような報告があり、今後にどうつながりそうですか?
2人とも、とにかく「行ってよかった」ことばかりだったと言っていましたね。単なるゲストでなくキャバルリーの一員として参加したため、ベイスターズの選手に加えてキャバルリーの選手たちの視点も知ることができ非常に勉強になった、と口をそろえていました。
一方、ウォード監督からも、「野球観の違いを共有し、日本のプロ野球界から我々も学びを得た。また、我々の考え方も伝えることができた」と聞いています。マンパワーの足りない現状で、小杉コーチがバッティング・ピッチャーを務めたりブルペンを見たり、あるいは戸谷トレーナーが選手を見てくれたことも、非常に助かったそうです。「また同様の形で来てほしい」とは言っていただいていますが、今年はタイミングが合わず、選手のみになりました。
今年もベイスターズがやってくる!
――キャンベラのコミュニティーとの交流は、今季も引き続き行うのですか?
日本語の授業があるエインズリー小学校への学校訪問は、昨年が2度目。日本語クラスで一緒に折り紙をしたり、自分の名前をカタカナで書いたり、選手たちと子どもたちが楽しく交流しました。また、昨季は初めて屋外で、ティーボールを使った野球教室を行ないました。そこで選手たちがバッティングやピッチングのデモンストレーションをしたところ、「あんな速い球を投げるんだ」「あんなに(打球を)飛ばすんだ」と好評で、(3回目の学校訪問となる)今年もぜひお願いします、と要望を受けています。
「12月にベイスターズとキャバルリーの選手が来る」イベントがエインズリー小学校の年間行事として恒例化し、みんな毎年楽しみにしてくれていると聞いて、嬉しかったですね。何より嬉しかったのは、「私たちも子どもたちが野球に触れる機会を作って、野球のすそ野を広げるお手伝いがしたい」という、校長先生のお言葉でした。
――昨年の野球教室の様子を拝見しましたが、子どもたちもボールを打って、追いかけて、本当に楽しそうでしたね。
今年はエインズリー小学校に加えてもう1校、ゴールドクリーク小学校という、やはり日本語の授業がある学校にも行きます。去年本拠地・MITボールパークで行なわれた「ジャパン・ナイト」のとき、ゴールドクリーク小の日本語の先生がいらして、「ぜひ私たちの学校でも」とおっしゃってくださったのがきっかけです。ゴールドクリークのほうは、日本人の先生が折り紙をはじめとする日本文化はすでに教えていらっしゃるとお聞きしていますので、玉入れなどの“プチ運動会”にして遊ぼうかと企画しています。
――もちろん、MITボールパークの「ジャパン・ナイト」も引き続き、開催なさいますか?
12月15日を予定しています。今年5月、在オーストラリア日本国大使館に着任された鈴木量博大使に始球式をしていただきます。日本人コミュニティーのみなさんも全面的に協力してくださって、今まで以上に楽しい催しになるかと思います。
――これまでのベイスターズ球団のキャンベラにおける活動が、今、どのような形になってきたと申し上げればよいでしょうか。
10月の(キャンベラでの)打ち合わせで受けた感触でも、「ベイスターズが来る」ことはキャンベラのコミュニティー内でもかなり認知されてきましたね。(戦略的パートナーシップ)スタート当初の2018年、19年にはお付き合いのなかった、日本にゆかりのあるいくつもの団体のみなさんが、様々な形で協力を申し出てくださっています。ベイスターズの取り組みがある程度定着し、コミュニティーのみなさんがそのキャンバスに色を付け始めてくださっているところではないでしょうか。
――今後、パートナーシップはどんな広がりを見せていきそうですか? 個人的には19年の春季キャンプのように、キャバルリーの選手がベイスターズに来てくれたらいいなと思うのですが……。
選手であれコーチであれ、我々はいつでもウエルカムですよ。ただ、彼らのほとんどがフルタイムの野球選手ではないので、なかなか実現が難しい面もあります。
今後に関しては、ベイスターズとキャバルリーの関係をさらに強化し、キャンベラのコミュニティーのなかに野球を広げていければいいですね。今年キャバルリーには、韓国KBOのKIAタイガースから4人の選手が参加しています。今後も韓国の選手が参加するのであれば、日本、オーストラリア、韓国の三カ国が集うキャンベラに端を発したものが、何かしら新しいビジネス価値につながることも考えられます。そこへ、例えば在豪の日本企業がスポンサーという形で賛同してくれて、プログラムが広がっていくとか。私はビジネスの専門家ではありませんが、そんな兆しを感じ始めた4年目です。
――元ベイスターズの濱矢廣大投手も今季、キャバルリーに加入しましたね。
そうなんですよ。濱矢投手はイーグルスからベイスターズに移籍して1年目にこのプログラムを知り、手を挙げてメキシコに行きました。翌年戦力外になりましたが、メキシコでのピッチングが認められ、その夏メキシコのリーグに呼ばれました。そうして海外を渡り歩き、オーストラリアに来て、またベイスターズの面々と共にプレーすることになった。濱矢投手自身からも、「またベイスターズと一緒に野球ができるのは嬉しいです」と連絡がありました。彼が野球人生を海外で継続するきっかけになったのも、国こそ違いますが、うちの派遣プログラム。こうした人とのつながりも、さらに広がっていけばいいなと思います。