奥本涼太投手(オークランド)インタビュー「ニュージーランド独自の野球文化を作るチャンスは今」

Ryota Okumoto (AUCKLAND TUATARA) – Photo SMPIMAGES/Baseball Australia. Action from the Australian Baseball League 2019/20 Round 10 clash between the Brisbane Bandits v Auckland Tuatara played at Auckland New Zealand

オークランド・トゥアタラがABL加入1年目の2018/19シーズン地区最下位から一気にステップアップ、2年目の今季、地区優勝を果たしました。そのレギュラーシーズン最終戦に先発したのが、1年目からチームに在籍する奥本投手。会社員とプロ野球選手という“二刀流”で奮闘する奥本投手にご自身のこと、ニュージーランド野球の現在について、お聞きしました(取材は19年末)。

――奥本投手は昨季から、会社員をしながらホームゲームのみトゥアタラの一員としてプレーしていますね。ご自身では『プロ野球選手』と『会社員』、どんな意識をもっていらっしゃるのでしょうか。

「野球好きの会社員がクラブチーム(ノースショア・ベースボール・クラブ)で投げていたら、地元に新しくできたプロ野球チームから声が掛かって、そこでプレーすることになった。とはいえプロ野球だけでは食べていけないので、やはり会社員がメインで野球は兼業ということになりますね」

――ふだん、どんなスケジュールで“二足の草鞋”を履いているのですか?

「会社は月曜から金曜、基本的には8時から17時の勤務です。ただ僕は営業職なので、(勤務)時間は比較的フレキシブル。試合のある日は、時間を調整して球場に来ています。逆に忙しくて試合前練習の時間に遅れる日もあれば、平日夕方からの練習に来られないこともあります。そこは会社も、トゥアタラのミンティー(監督)も共に理解してくれています」

――トレーニングの時間を確保するのは大変そうですね。

「シーズン中は、空いた時間にジムに行くなどしています。シーズンオフはクラブチームのほうでも“ウインタートレーニング”といって、週1回のトレーニングがあります。室内練習場にはマウンドもあり、幸い受けてくれる人もいるので、週に1、2回、仕事帰りにピッチング練習もできるんですよ。8月ごろからはマウンドで投げながら、シーズンに向けて準備をしています」

――ニュージーランドに初のプロ野球チーム・トゥアタラができて、2年目。ニュージーランド野球そのものに何か変化は起こり始めていますか?

「以前から野球にかかわってきた人だけでなく、それ以外の人たちへの“野球”の認知度は高まりましたね。野球を見るチャンスのなかった人が見るようになり、野球に触れる機会のなかった子どもたちに、その機会ができた。まだまだラグビーやクリケットに比べればマイナースポーツですが、“オークランドにプロ野球チームができた”ことは、かなり一般にも広まったと思います」

――昨季は、テレビのニュースなどでもかなり取り上げられていましたよね。

「もっと取り上げてもいいかなと思ったんですけどね……(笑)。でも昨季に比べれば今季はスポンサーも増えていますし、ニュージーランド全土の人に野球を知ってもらう良いきっかけになったのは間違いないと思います」

――あとは、何が必要でしょうか。

「ニュージーランドでラグビーが人気なのは、代表チームのオールブラックスが強いから。やはり、トゥアタラが勝つことでしょうね。昨季はまだ1年目で、みんなが手探りの状態でした。僕自身、自分が成績を残すのに必死。今季からはニュージーランドがオーストラリアに十分対抗できる、勝てるようにならなければいけないと思います。本当はニュージーランドからメジャー・リーガーを何人も輩出できればベストなのでしょうが、それはまだ先の話。まずは身近な目標があったほうがいい。それには僕らが勝つことですね。そうでなければ、ファンは増えないと思います」

――おらが町のチーム、選手が強いとファンが集まるのは、どこでも同じですよね。

「ウチに“ピンキー”と呼ばれている、元ニュージーランド代表のアンドリュー・マルクという選手がいるんです。地元で野球をやっている子ならみんな知っているような選手なんですが、今季、彼が活躍してスタンドが大いに盛り上がっているんですよ。それを見て、やはり地元のスターが必要なんだなと改めて感じました。身近な存在がプロで活躍して、“僕らもできるかも”と子どもたちが思ってくれるのが一番ですね」

――奥本投手はもともと、どうして野球を始めたのですか?

「僕は祖父が広島出身で、大のカープファン。子どものころ、祖父に球場へ連れて行ってもらって野球を見るのが、とても楽しかったんです。それでグラブを買ってもらい、野球を始めました。野球って、夢がありますよね。自分の好きな野球で生活できる可能性もあるんですから」

――今はその奥本投手が、子どもたちに野球を教えることもあるそうですね。

「はい。クラブチームのほうで教えています。ニュージーランドの子どもたちはとても素直で、ちゃんとコーチの話を聞くし、何か疑問があれば積極的に、自分が納得するまでコーチに質問します。日本は野球文化が完成されているため、少々型にはまっている部分もありますが、こちらはまだまだ。初めて野球を知り、初めて野球をやる子どもが多いんですね。何も知らない、まっさらな子どもが多いぶん、ニュージーランド独自の野球文化には伸びしろがあると思います。ニュージーランドに“野球”という文化を作るのなら、今が大切な時期。日本とニュージーランドのお互いの文化を尊重しつつ、子どもたちに教えていけたらいいですね」

――それは楽しみですね。

「いつか、僕らの野球を見た子どもたちの中から、メジャー・リーガーが出ればいいなと思います」

――奥本投手自身の今季はいかがですか?

「今季はウチのチームにいい左が多いんですよ。ジャレッド(・ケーニッヒ)、ルーカス(・ジェイコブソン)に、村中(恭兵)さんも加わって、僕も非常にいい刺激になっています。彼らから多くを吸収して、チームの勝利につながるよう結果を出していきたいです」

――昨季トゥアタラに参加した千葉ロッテマリーンズは1年で撤退してしまいましたが、またNPBの選手にもどんどん来てほしいですね。

「そうですね。ニュージーランドやABLの野球の考え方、教え方……日本にはない良さがあると思うんです。ちょうど日本はオフシーズン。自主トレも兼ねて、NPBの選手にはもっとこちらに来てほしいですね」

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