昨季派遣選手の感想はみな「行ってよかった」。 横浜DeNA、ABL派遣2年目の変化は?

PHOTO – Brett Fewson | SMPIMAGES.COM / ABL. Action from the 2019/20 Australian Baseball League (ABL) Round 4. Clash between the Canberra Cavalry and Sydney Blue Sox at MIT Ballpark in Canberra, ACT. This image is for Editorial Use Only. Any further use or individual sale of the image must be cleared by application to the Manger Sports Media Publishing (SMP Images)

2018年からABLキャンベラ・キャバルリーと『戦略的パートナーシップ』を結ぶ、横浜DeNAベイスターズ。初年度の昨季は三上朋也、国吉佑樹、今永昇太、青柳昂樹の4選手を送り出した。彼らの経験を経ての今季、パートナーシップは何が変わり、何が発展するのか。同事業を担当するチーム統括本部人材開発コーディネーターの住田ワタリさんに話を聞いた。

――横浜DeNA球団がキャンベラ球団と『戦略的パートナーシップ』を結んで2年目。まずは、昨年の成果からお教えください。
「我々の考え方の中に、“何をもって成功とするか”というものは明確に置いていないんです。従って昨年、どんな成果があったかというと、それは渡豪した選手一人ひとり違います。2019年シーズンの数字だけを見ると、今永と国吉の2人は、“オフにABLで投げたから”成果が出たとも思われるかもしれません。しかし我々はそもそも、“ABLに行ったから”どうだという議論はしていないんですね。何が一番の成果だったかといえば、19年に向けて18年のオフをどう過ごすか、選手個々がオーストラリアという場を選び、取り組んだことそのものが“成果”でした」

――昨年派遣された4選手からは帰国後、ヒアリングはなさったのでしょうか。
「かんたんなものですが、やはり全員“行ってよかった”という感想でした。我々がなぜABL、オーストラリアに選手を派遣するかというと、異文化の中で野球を経験することで、野球文化や野球観の違いを知ると同時に、自信が生まれる。また、日本のオフの時期にそこで自分のやりたいことができる、実戦の場があるということ。加えて異文化で生活することによって視野が広がり、人間的成長をも得ることができると考えているため。そこは4選手ともそれぞれ自分の経験を糧にして帰ってきてくれました。国吉は笠井崇正が手を挙げるのに、随分背中を押してくれたんですよ。“絶対行ったほうがいいぞ”といろんな話をして、自炊生活のあれこれまでインプットしてくれたと聞いています」

――それで昨年の『Kuni’sキッチン』が『Kasai’sキッチン』になったんですね。そういえば昨季は、青柳選手が滞在中に驚くべきコミュニケーション能力を発揮し、英語をみるみる上達させていたのも印象的でした。
「そういう意味でも、4人の中で最も変化を感じたのは青柳でした。“英語をもっと勉強したい”“いずれ海外で何かしたい”と、シーズン中から口にしていました。残念ながら19年限りで戦力外になってしまいましたが、“海外に住んで仕事をする道を考えています”と目を輝かせていました。昨年の派遣が、彼の将来のキャリア形成におけるきっかけ作りになったのは間違いないと思います」

――19年は春季キャンプにキャンベラのスティーブン・ケント、スティーブン・チェンバースの2投手が参加しましたが、これからも同様の試みは考えておいでですか?
「19年は、ケント投手が日本でプレーする可能性を探る意味合いもありました。20年も、キャンベラ側からオファーがあれば、前向きに検討したいと考えています」

――選手派遣以外のパートナーシップについては今季、何か変化、拡大するものはありますか?
「昨年好評だった『ジャパン・ナイト』は、キャンベラ側とも“毎年の恒例行事にしよう”と話をしました(※取材は、『ジャパン・ナイト』開催前)。今季は12月13日、こちらの三原一晃球団代表と日本大使、そしてオーストラリア側の代表者が始球式を行う予定です。キャンベラの選手たちのユニフォームはみな背中の名前をカタカナ表記にし、スタンドからはオレンジのジェット風船を飛ばすなど、日本式の応援を楽しんでもらいます。また今季は2年目ということで、球場外でも現地の方々と交流を図っています。オーストラリアでは第二外国語として、日本語を勉強している学校が多いんですよ。12月10日には、その中の一つの小学校を訪問し、5年生の児童40人ほどを対象に野球教室を開きました。これにはうちの選手のほか、ちょうどその時期視察に訪れていたスタッフも参加しました。14日にも9歳から13歳の50人ほどを対象に、野球教室を開く予定でいます。球団同士のパートナーシップを結んでいるがゆえに、お世話になっている地域との文化交流や野球普及のための貢献も、より密にできていると思います」

――今季、横浜DeNAで派遣を希望した選手は4選手とも右投手。こうしたポジションの偏りについては、キャンベラ側とどんな話をしていらっしゃるのでしょうか。
「我々の海外派遣は台湾、メキシコ、オーストラリアすべて、希望者を募る形になっています。あくまでも自ら手を挙げた選手が優先ということは、キャンベラ側にも十分理解してもらっており、あとは現地での調整になります。今季はキャンベラの先発枠が埋まっていたため、先発希望の阪口皓亮、大貫晋一の2人はシーズン半分ずつ分け合って投げることになりました」

――その大貫投手は、自らホームステイを希望したとお聞きしました。
「それが2年目の大きな成果ですね。“せっかくオーストラリアに行くのだから、英語を覚えたい”と言って、ホームステイか外国人選手たちとルームシェアする形のいずれかを希望しました。キャンベラ側も歓迎して、ホームステイするお宅を探してくれました。これも我々の目指す一つの形です」

――今季も基本的には選手だけが渡豪し、通訳のかたはホームゲームのみ着く形でしょうか?
「今季は、キャンベラでの通訳もお願いしていません。その代わり、日本を発つ前にチーム付きの英語教師である平川ブライアン先生に各自、英語教室をしてもらいました。現地に行ってからも、各自スカイプを使ってブライアン先生と連絡を取り、相談のできる環境を整えました。選手自身が“英語を勉強したい”と感じたときに与えられる環境を、オプションとしてどんどん増やしていくつもりです」

――今後、ビジネス面では何か進展する可能性はありますか?
「19年の夏、キャンベラのCEO、ドン・マクマイケルさんが横浜にいらして、横浜スタジアムはじめいろいろな施設を見て回りました。今季はこちらからも球団代表がキャンベラを訪問しますので、このトップ同士の行き来を機としてお互いをさらによく知り、新たな交流や意見交換も生まれるでしょう。代表と共にビジネスサイドの担当者も現地に入り、様々な調査を行う予定です。選手派遣を通じ、キャンベラと横浜という両地域に今後どんな貢献ができるか。2年、3年とパートナーシップを続けていくことで、また見えてくるものは必ずあると思います」

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