DeNAの戦略的パートナーシップとは【第2回】

選手の自主性が、成長につながる――横浜DeNAベイスターズとABLキャンベラ・キャバルリーの新しい試み

2018年7月、横浜DeNAベイスターズとABLキャンベラ・キャバルリーの『戦略的パートナーシップ』締結が発表された。業務提携の第一弾として2018/19シーズン、キャバルリーに今永昇太、三上朋也、国吉佑樹、青柳昴樹の4選手を派遣する。この『戦略的パートナーシップ』とは、どのようなものか。DeNAベイスターズ側の“戦略”を、この事業に携わるチーム統括本部チーム戦略部・人材開発コーディネーターの住田ワタリさんに聞く、第2回。(取材は今永、三上両選手合流前)

Photo: SMP Images

――過去、派遣にあたってはABLのチームから、例えば「ピッチャーが2人欲しい」といったポジションの要望があったと聞いています。今回の提携ではそれはなかったのでしょうか?
「ありました。ただキャバルリー側が、我々はチームとして業務提携をするということ、そして野球だけでない生活、文化体験をオーストラリアでしたいというこちらの意図を、しっかり理解し、それを大前提で受け入れてくれたんですね。そこで我々も、次のステップとして『どういう選手が必要ですか?』と聞きました。向こうの希望としてはまず、先発ピッチャー。あと、リリーバーがいたらいいなと。内野手は基本的にアメリカから長打の打てる選手を連れてくるし、捕手も難しい。外野手なら1枠くらいあるよ、ということでした」

――その内訳も選手には伝えたうえで、希望を募ったのですか?
「いえ、初めは言いませんでした。向こうのチーム事情と、こちらの予算の兼ね合いから4人くらい派遣できるかなとは考えていましたが、実際は4人以上が手を挙げてくれました」
――初めてとしては、上々ですね。これで一度誰かが経験して帰ってくると、さらに希望者が増えるように思います。
「内心、僕もドキドキでしたね(笑)。主体性をうたっているのに、誰も手を挙げなかったらどうしよう、と(笑)。でも、そこはいい形で期待を裏切ってくれました。最終的に数名が彼ら自身の事情や考えでキャンセルとなりましたが、それだけの人数が手を挙げて、真っ先に手を挙げてくれた2人(国吉、青柳両選手)が今、第1陣で行っています」

――手を挙げた方に関しては、面談のようなことはなさったのですか?
「もちろん僕も同席し、球団関係者などと話はしました。まず、『なぜ行きたいか、目的は何か』そして、『行って何を期待するか』というところまで、聞き取りをしました。4選手とも、自分の考えを持っていますし、『こういうことを挑戦したい』『こうやって変わりたい』といったことをはっきり伝えてくれたので、じゃあ行ってもらいましょう、と」

――マイナーリーグから参加する選手など、ピッチャーの場合は球数制限やイニング制限がかかるケースがあるそうですね。例えば三上投手など、毎年ある程度のイニング数を投げていますが、そのあたりの心配は?
「もちろん、ないわけではありません。しかし、日本で秋季練習をしていて、ケガをすることもあります。試合でも練習でも、ケガのリスクはありますが、一方この時期投げたら登板過多になり故障するというエビデンスも、おそらくありません。ABLの試合は週末4試合の日程が11週間続きます。その中で、どれくらいだったら投げられるか、どういう形でなら参加してもいいかは、まず三上自身の考えを聞き、キャバルリーとも話をしています。それで、リスクは本人がある程度、回避できると判断し、参加することになりました。我々のような形だと、そういうリスクも含めて自分で考えられる選手じゃないと行けないと思います」

――行けないし、まず手を挙げない。
「手を挙げないと思いますね。少し批判的な声もネットなどにあったようですが、三上に関しては本人も十分承知の上で、向こうで無理をするとか、肩が痛いのにチームのために頑張りますとか、参加する4人は絶対にしません。それは向こうも求めていませんから。我々とのミーティングでも、『キャンベラでケガをするようなことは、絶対にあってはならない』と言って、理解を示してくれました」

――これまでの派遣では、日本のシーズン中に実戦経験が不足していたから、と行くケースが多かったですが、三上投手のチャレンジで、何か新しいABL参加の形が見えてきそうですね。
「私はそっち派なんです。我々がやろうとしてるのは、『野球だけではない』ところが最大のポイント。三上にしても『自主トレも兼ねて行きます』『どっちみち1月には肩を作っておくんだから、相手がいてそこで投げられるなんて最高ですよね』という彼の考え方は、12球団見渡しても、今後球団がオフに行うプロジェクトの中で新しいものだなと思います」
――誰か、「自分自身が変わりたい」的なことをおっしゃった方は?

「いましたよ。青柳も、国吉もそうです。国吉は今季9年目。本人も今の位置は自分自身分かっていて、今回初めは『中継ぎで行きます』と言っていたんですが、シーズン終盤の9月(25日、広島戦)に先発して、その感覚がよかったそうなんです。そこで、向こうに行ってから彼がキース・ウォード監督に、『中継ぎで要望を出していましたが、9月に先発で手応えをつかんだので、できればここでも先発させてほしい』と直々に話をしました。すると監督も『来季に生かすため、自分で目的意識を持っていろいろ考えているのであれば、前向きに検討します』と言ってくださって、さっそく開幕2戦目に先発させてもらいました」

――メルボルン・エーシズに参加している埼玉西武・高木勇人投手との、日本人先発対決になりましたね。
「そうなんです。監督もチーム同士のパートナーシップの意味を理解して、こちらの要望を聞いてくださるので、非常に助かっています」
(第3回につづく)

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